「幸せを増やすために放送したい」(下旬) 二十三年分の灰

 「実は、この町は二十三年間、ゴミを焼いた灰を近くの谷に捨て続けているんですよ。

その下には川が流れていて、その先には田んぼもあるし、小学校もあります。

今はゴミを焼いた煙から出てきたダイオキシンが問題になっていますが、自分はそちらの方がものすごく心配で、まずは何とかして、二十三年間積もりに積もった灰を掘り起こしたいと思っています。

でもお金もないし、どうすればいいか迷っています。

それでも自分としては何とか町長と話し合って、捨ててしまったものを取り除きたいんです」

と、初めての電話で話して下さいました。

 こんなことはそれまでありませんでした。

だって亀甲さんが悪かった訳ではないんですよ。

たいていの場合、過去の行政の担当がされたことというのは、あまり話したくないのが普通ですから、隠すことが多いんです。

それを全部掘り起こしたいとおっしゃったんです。

それで私はその話をしながら「この方だ」と思いました。

 「その取り組みは、みなさんにとってすごく参考になることなので、まず町が掘り起こす作業を、カメラで追いかけさせて下さい」

とお願いしました。

そうしたら

「ええ、私たちも覚悟を決めています。

それが取材されて役に立つのであれば、町長から許可がおり次第ご協力します。

ただ、自分たちも町民と一からやり直そうとしているところなので、叩かれるのであればやはり取材はお受けできません。

でも応援してくださるのならいいでしょう」

と言われたので、「もちろん私たちもそのつもりです」とお答えしました。

 その二、三日後に許可がおりて取材が始まりました。

実はそれは今も続いています。

そして、その事実を隠さない素直な姿勢は、伝えるごとにどんどん共感を呼ぶようになったんです。

私はこの取材を経験して、自分が放送の仕事にかかわれることをとても幸せだと思うようになりました。

現代では、地方で作った番組というのは、なかなか県外で見ていただける機会がありません。

 でもおかげさまで、気に入って下さる方があちこちにいらっしゃって、いろんな方々が上映会を開いて下さいました。

この番組を作ることで、私たちが思う以上に、鹿児島で起こっていることに魅力を感じて下さる県外の方が多い、ということを感じることが出来ました。