「老いに向き合いともに生きる」(上旬)車イスに座らせて奪ってしまった能力

======ご講師紹介======

中迎聡子さん(宅老所いろ葉代表)

☆演題 「老いに向き合いともに生きる」

昭和50年、南九州市川辺町生まれ。

平成11年に介護の仕事に出会い、特別養護老人ホームに勤務。

その仕事を続ける中、お年寄りの食事、入浴、果ては排泄まで管理されるといった、本人の気持ちを無視したような介護のあり方に疑問を抱き、平成14年9月に施設を退職。

その後、自分のやりたい介護を実現するため、宅老所を作ることを決心。

平成15年、ごく普通の民家を介護の場とする「宅老所いろ葉」を設立。

平成17年にいろ葉の「さくら」、翌年いろ葉の「ふじ」を続けて開設し、現在も重度の認知症の方とともに過ごす日々を送っておられます。

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現在、鹿児島市にある宅老所

「いろ葉」

には15名のお年寄りがおられます。

また、川辺にある

「いろ葉のふじ」

には20名の登録者がいらっしゃいます。

スタッフ葉、そこにいるお年寄りの方がどんな方であっても、認知症という言葉は使いません。

ご飯を食べたことをすぐ忘れる某さん、夜になれると眠れない某さんというように、その人の特徴と向き合っています。

いろ葉の建物は、普通のお家を使っています。

それで、1日にだいたい7人くらいの人が、通ったり泊まったりしながら、お年寄りそれぞれの生活リズム、家族のニーズに合わせて利用してもらっています。

いろんな人のご要望に応えていくうちに少し変わった外観になりましたが、中身は至って普通のお家です。

お金もない状態で始めたので、イスなどももらい物が多く、大きさもバラバラです。

でも、それがちょうどいいんですね。

お年寄りにも身体の大きい人や小さい人、足の長い人や短い人がいますから、それを使い分けていくうちに、その人のイスができてくるんです。

居間にはなるべく、いろんな所をソファーを置くようにしています。

車イスは基本的に移動のための物で、そこにずっと座る物ではないと私たちは考えているからです。

なので、歩けなくもはって移動出来る人は、畳をはって移動してもらったり、車イスの人ならソファーに移します。

ソファーなら、しんどくなってきたそのまま横になれますから、私たちも楽なんです。

私が以前務めていた施設には、畳の部屋はありませんでした。

もし、私が50人くらいの人が入るような老健施設を作るとしたら、床は全部畳にしたいと思っています。

そのくらい畳はいい物なんです。

スタッフもみんな同じ目線になれますし、みんなでゴロゴロと転がって遊ぶことも出来ます。

そうすると、意外な力持ちなお年寄りに気づかれることもあります。

そういうところから、

「これだけ力があったら、はって移動できるかもしれない。

自分の力で行きたい所に移動できるのっていいよね」

ということで、這う練習をしていくんですね。

それではって移動できるようになったら、今度はソファーに手をついて自分で座れるように練習していきます。

それを365日絶え間なく、特定の人だけでなく、どのスタッフが相手であっても同じように練習できるように、すごく緻密な記録を取りながら続けていくんです。

そして、自分でイスに座れるようになったら、次は何かの支えで立って歩けるように練習していきます。

練習では、スタッフの太ももに全身を預けてもらう形にして、お年寄りが自分で立っている雰囲気を作るんです。

そうしていくうちに、私たちスタッフの方も、支えているお年寄りに何となく力が入っているのが感じられてきます。

例えば、おばあちゃんが10%の力を出せていたら、私たちは90%の補助をします。

おばあちゃんが20%の力を出せていたら、私たちは80%の補助をするというように、二人合わせて100%の力になって、立つのにちょうどいい状況を作るようにしています。

そうすると、一年後には、一人でつたって歩けるようになるんです。

それは奇跡では何でもなくて、安易に車イスに座らせることで奪ってしまった能力だったのだと思います。