「心の病からみた現代社会」(中旬)認知症には自覚症状がない

また、うつの他に昨今増えている病気である

「認知症」

の患者さんは、現在65歳以上の高齢者で8〜10%くらいの方がいると言われています。

認知症は、まず物忘れから始まります。

そして、日時や場所、人が分からなくなり

「今日は何年の何月何日ですか」

と聞いても、すぐに答えられないことなどが挙げられます。

年をとれば自然と物忘れしますが、老化による物忘れと認知症による物忘れには違いがあります。

老化による物忘れは自覚症状があるので、

「自分は認知症じゃないか」

と心配する人は、老化による物忘れです。

逆に、認知症の方は自覚症状がなく、

「自分は認知症じゃない」

と言うので、家族が病院に連れていくのが大変なんです。

また、誤認といって、夫を父と間違えたり、子どもが家にいた頃を思い出して、子どもの分の食事を準備するといったことなどがあります。

他にも、寝ているときに大声でどなったり、隣で寝ている奥さんを叩いたりすることもありますね。

昔、ピック病と呼んでいた

「前頭側頭葉変性症」

は、同じコースの道を何度も散歩したり、同じものばかり食べるなどして、同じことを家の中でも繰り返し行います。

さらには、万引きをして警察に捕まってしまうこともあるんですね。

これらの症状は、名前や言葉が出てこなかったり、やる気が出なかったりすることに始まりますが、この程度であれば家族も認知症とは思いません。

しかし第2段階として、つい最近のことを忘れたり、人の言うことを理解できなくなってくると、家族もだんだん分かってくるんですね。

これがどんどん進むと、先ほど言ったような症状が出てきます。

日常生活に支障が出てきたら、家族が面倒をみるか、グループホームにお願いするようになります。

症状がさらに進行すると、徘徊したり、やせて栄養失調になったりして衰弱していきます。

この流れを少しでも遅らせるために、適切な治療が必要になるんですね。

さらに症状が進むと、病院で栄養管理しますが、ここで最近の医療の問題が出てきます。

口からご飯を食べられなくなった方には

「胃瘻(いろう)」

という治療を行います。

認知症の方がご飯を口から食べると、間違って肺に入ってしまうことがあり、それが原因でいのちを落とすこともあります。

そのリスクを減らすために、お腹に穴を開けて胃の中に入れたチューブを通して栄養分を送る方法が

「胃瘻」

なんです。

確かに効果がある方もいらっしゃいますが、終末期の患者さんに、こういう人工的な延命措置を積極的に施していいのかと、医学会でもいろんな意見の人がいます。