優れた人材は社会の財産(中旬)行政に頼らない地域おこし住民でできることは住民でやる

「行政に頼らない」という文言がありますが、これは誤解しないでいただきたい。

単純に行政に頼らないっていうことではなくて、地域の住民でできることは地域住民でやるということです。

行政とケンカしているわけではないのです。

例えば、私たちの地域の住居に設置した緊急警報装置ですが、あれはだいたい5万円から6万円します。

高齢者がひとり暮らしになったときに、例えば、夜中に救急車をよびたいけどもそれすらできない。

子どもや孫は都会に行って間に合わない。

皆さん、そういう環境について考えたことありませんか。

高齢地域になれば孤独死について考えます。

私は、館長になったとき、やねだんで孤独死を出したらいけないと警報機を設置しました。

そして基本は半径100メートル内の人と名前と顔を知り、皆と親しく会話が出来るような状況であれば、緊急警報装置を押したなら誰かが飛び込んできて助けてくれる。

基本になるのは何かといえば、笑顔と会話です。

だから私は地域に住む一人ひとりの名前を覚えるのは務めだと思っています。

こういった環境づくりは現場主義の発想によるものです。

地域づくりは「論」で語ったらおしまいです。

行動して汗で語るものです。

住民自治に関して知恵を出したら絶対必要となるものがあります。

それは「自主財源」です。

行政の補助金では警報機などつけられません。

住民自治で大切なこと、それは負の項目を解消していくことです。

自主財源があれば、負の項目の解消に手を打つことができます。

その額について「7ケタ」と書きました。

7ケタ、100万円単位の財源があれば何かできます。

100万円稼ぐのは大変です。

でも次を考え、私は逆転の発想で方程式を出しました。

かつて、やねだんの集落では1戸から7千円ずつ130戸数分の町内会費を取っていたのです。

高齢者も含めて全戸から。

そこで、私はこんな放送をしました。

「集落のみなさん、おはようございます。町内会費を納めないかわりに芋植えて、9反あれば90万円から100万円が見込めるので、その芋代を町内会費にあてます」

と言いました。

そしたら誰が喜んだかというと高齢者です。

「よか、そいがよか」「そげんせい」と。

そこまでは分かるんです。

皆さんうなずいておられる。

ところが、次に皆、頭をひねるんです。

方法についてです。

それは何かといったら奉仕作業です。

そのことを言うと必ずしも住民全員が賛意を示してくれません。

「だまさるんな、哲郎に」って言う人も出てきます。

1〜2割程度はいるんです。

私自身は黒子に徹するのが良いと思っているので表には出ず、これを高校生に言わせました。

仕掛けとして「高校生クラブ」を作りました。

普段はあまり表に出ない引っ込み思案の女の子と男の子に

「ひろし、ちょっとうちに来んか、さちこも連れて来い」

と声かけました。

うちはうなぎ屋でしたから、鰻を食べさせると言ったら喜んで来ましたよ。

そして鰻の蒲焼を食べた後に

「高校生クラブを作って、飛行機に乗って東京に行って、皇居前のホテルに泊まってプロの野球の試合を見に行こう」

という提案をしたら

「それはいい。やりましょう」と。

それで人を集めて当初12名でした。

今の高校生、女性が言ったら男性は「わかった」と言います。

ぼくらの頃は逆でしたが、今は女性が言ったら男性は「わかった」って必ず言います。

今、地域づくりはウーマンパワーが5割を占めているんです。

呼びかけても執念も力も続くのは女性のほうです。

それから子どもです。

だから私は、地域づくりは文化の向上と子どもがカギになると常々言っているんです。

「おじちゃん、おばちゃん、高校生クラブの田畑ひろしです。飛行機に乗って東京に行って、プロ野球を見にいくために、畑を貸してください」

「畝(うね)立てをお願いします。芋づるをください」と。

苗床(なえどこ)して、自分たちに収域作業が終わった後の残りづるをくださいと言ってるわけです。

そしてまたここで、工夫しました。

スピーカーってあだ名のついているおしゃべりの先生、ミエさんが一番先に芋づるをくれたら地域全体に広がるだろうと考えました。

それで

「みなさん、おはようございます。6班の中尾ミエさんが早速、芋づるを提供してくださいました」

と放送すれば、「ミエ婆がくれた!ほんなら俺たちも…」って。

皆さん笑われるけど、地域づくりには脚本はないんですよ。

みんな即興なんです。

行政がやるように台本があって、序列があって読み上げ「はい、わかりましたか」というやり方ではないのです。

だから私は講演でも原稿は書きません。

講演会の場で、なぜ私は動いていると思われますか。

眠っている人のところに行くのです。

地域づくりもこれしかないのです。

端っこにいる人はあんまし興味のない人なんです。

だから私が立ち位置を変えて近づいていく。

すると「哲郎がそばに来れば、見らんわけにもいかんしね」ってことになる。

私は地域づくりでも同じことをやっているんです。

こうやってやねだんは7〜8年目頃から4〜5百万円の利益がでるようになって、そして10年目には全戸に1万円のボーナスを配布しました。