平成29年7月法話『無常 この夏もやがてあの夏になる』(前期)

先月、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんの妻で、乳がんで闘病中だったフリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなられました。

闘病中でありながらも、ブログを通して日々その様子をお伝えくださいました。

特に同じ病気で闘病中の方々やそのご家族の方々にとっても、懸命に生きているその姿に励まされた方も多かったのではないかと思うことです。

その前向きに生きる姿が、がんと闘う人々に勇気を与えたとして、英BBCから世界の人々に感動や影響を与えた「今年の100人の女性」の1人にも選ばれました。

麻央さんが最後に残した言葉が「愛してる」という言葉であったということを、海老蔵さんが会見で話されていました。

その言葉を聞かせていただくと、いかにお二人が深い信頼関係でつながれ、お互いが相手のことをおもい、おもわれていたんだろうなと感じたことです。

まだ小さなお二人の子どもさんを残して命を終わっていかなければならなかったその気持ちをおもいはかると、同じく子どもをもつ親として言葉では言い表すことのできない気持ちになります。

毎朝、当然のように目を覚まし、家族に「おはよう」と声をかけると「おはよう」と返事が返ってくる。

それを当たり前のように過ごしていますが、実はそうではないということをあらためて感じることです。

「無常」という言葉は、すべてのものは生滅変化を繰り返しとどまるものはなにもないということです。

そしてまた、やがては必ず滅していかねばならないものが、今ここにあるということの尊さに目覚めてくという意味があります。

お釈迦様は、「人の世のいのち受くることは難く、やがて死すべきものの、今、いのちあるはあり難し」とお伝えくださいました。

仏教でいう「無常」は、「あなたもいつかは必ず死ななければならないのですよ」ということだけで終わるのではなく、いつ・どこで・どのようなかたちでいのち終わってもおかしくないそのいのちを今いただいているのですよ。

今こうして生かされていることの有り難さに早く気づいて今を力強く生きていきなさい」と教えてくれるのです。

この夏もまたやがてあの夏になるわけですが、過去・現在・未来と移りゆく日々の中で、いつでも・どこでも見護りはたらいてくださる阿弥陀如来さまの大きなお慈悲のおはたらきにつつまれながら、いま・ここというところを心豊かに安心して歩ませていただきたいものです。