平成29年10月法話『流転 人は得意なもので迷う』(後期)

「冬のネギはきびしい寒気の中でかたくならずに柔らかくなる(榎本栄一)」

ネギとは人間、きびしい寒気とは人生の苦労のことで、人間は苦労を知らず何もかもが順調に進むと、つい調子に乗りすぎて天狗になってしまう。

得意満々で「有頂天」という天狗になった途端に、自慢の長い鼻がポッキリ折れ、迷いの深みにはまってしまうのではないでしょうか。

何の不自由も苦労もなく人生が進むとしたら、我が儘にこそなれ、優しい人にはなれないと思います。

人生には苦労はつきものだから、そこを乗り越えたときに、心も柔らかくなり、思いやりのある優しい人になれるのではないでしょうか。

 

『僕が泣いたら』~新聞記事より~

サンフランシスコからハワイに向かう機内で、小さな赤ちゃんを連れた二人の女性の隣になった。「こんにちは」と挨拶して席に座った。「これどうぞ」と女性は手紙が添えられた小さな袋をくれた。中には耳栓とキャンディー、ラムネ。手書きの手紙にはこうあった。

「僕は生後2カ月のジェイデンです。いい子にしているつもりだけど、怖くなったり耳が痛くなったりしたら泣いちゃうかもしれないので、ごめんなさい。ママとおばさんが、このお楽しみ袋を作ってくれました。それでは良いフライトを。ありがとう」

周囲の人たちも同じものを受け取ると、みな「あら素敵」と。
母親のジェニファーさんは、「子どもが泣いたときに嫌がる人もいるかと思って」と。
あまり気を使う必要もないだろうが、みな急に親しみを感じたようだ。時々ジェイデン君の様子を見たり、寝顔をのぞいたり、ジェイデン君は終始ご機嫌で無事到着。

人生の寒気(苦労)に出会い、そこをくぐり抜けたときに、相手の身に寄り添うていきるという人生が開かれてくるのではないかと思います。