ご葬儀で、ある喪主の方の挨拶です。
『健康自慢の父は、若い頃から心身ともに元気で病気知らずでした。
ところが、最近咳が続き、病院での検査を勧めましたが、「そのうち良くなる」と言って、聞く耳をもちませんでした。
食欲もなさそうなので、嫌がる父をやっとの思いで病院に連れ出すと、検査の結果は「肺炎をこじらせている」とのことで、緊急入院でした。
健康自慢が災いし、診察するのが遅れてしまったのか、様態は一向に良くならず、わずか2週間ほどでいのちを終えて逝きました。
亡くなる3日前の夜中のことです。
ベッドの上であまりにも荒い呼吸をするので心配になり看護師さんを呼ぼうとしたとき、苦しそうな息の中から父のつぶやきが聞こえてきました。
「お前はまだ起きていたのか。少しは眠らんと身体に悪いよ」と言いながら私の頭を引き寄せ、「寝らんか、寝らんか…」と言いながら優しく頭をなぜる仕草をしました。
私はその時、何とも言いようのない安らかな気持ちになると同時に、逆だったなと思いました。
今まで、私が父を看病していると思っていたけれど、逆だった。
死に行く父から、いつも優しく見守られていた私だったということに気付かされました。
同時に、親の恩がこれほど深く重たいものかを知り得た気がしました。
今、悲しみの真っただ中ですが、私はこの父と出会えて本当によかったという感謝の気持ちでいっぱいであります』
親子・兄弟・姉妹・夫婦…、近ければ近いほど、「出会うのは当たり前」と思いがちな私たちですが、この方は出会いも別れも不思議なご縁によるということを教えてくださいました。