「ヒトの意識が生まれるとき」(中旬) 敏感にとらえる

 センスのよいお母さんは、赤ちゃんがむずかっていると

「あらあらどうしたの」

というような感じで、普段よりも高い声がさっと出るんです。

それに対してセンスの悪いお母さんは、地声で言うんですね。

だから赤ちゃんに対してぱっと高い声を出すというのは、敏感に赤ちゃんは高い声が好きだということを無意識に感じているということなんですね。

赤ちゃんは、どうもこういう高い声が好きみたいなんです。

まだ生まれた直後ですよ。

何も教えられていないのに、そういう感性を持ってスタートするんです。

さて、赤ちゃんは非常にいきいきと動いているのに、大人はしっかりと応えているかということですが、先ほど

「若いお母さんが赤ちゃんをあやすときに、ぱっと声を高くしているかどうかよく見ましょう」

という話をしましたが、実は東京大学の正高という先生が実験をしているんです。

まだ子育てとか全く経験のない女子大生を対象に実験をしたんですけども、一歳ぐらいの乳児を形どったお人形をそこに置きまして、

「はい、このお人形さんに絵本の読み聞かせをしてください」

とお願いをしたんです。

その時の女子大生一人ひとりが発声する音の高さを測定しました。

そうすると、その正高という先生はすごい発見をしました。

その女子大生が末っ子や一人っ子だというのを、ほとんどピタリと当てたんです。

女子大生はみんな子育ての経験がないけれど、その女子大生に妹や弟がいたら、あやした経験が何度かある訳です。

そのあやした経験が自然に、意識していないのに出てくるということなんですね。

少子化の中で、今の子ども達は赤ちゃんをあやす経験がとても少なくなってきています。

これは、少子化社会で育った子ども達が大人になったときの子育てにも、どこか影を落とすこともあると思います。

つまり、子育ては頭でするものではないということです。

昔を思い出されるとお分かりになると思うんですが、年を重ねるごとに家庭電化製品の性能が非常に良くなり、お母さんたちの苦労は確かに減ってきています。

その一方で、子どもとの関わりに手が抜かれ始めたら、これはもったいないと思うんです。

なぜなら、実際に関わることで、私たちはいろんなことを学んでいるからです。

これが私の今日の結論なんですが

「素晴らしい応答から生まれる親子のきずな、そして『ヒトの意識の誕生』」

ですね。

私自身の問題意識は、赤ちゃんのことだけのつもりじゃないんですよ。

今のいろんな子どもをめぐる状況を考えてみると、どうも「きずな」ということが気になってしょうがないんです。

そうすると、私たち大人はいま子ども達にどれだけ敏感に関わろうとしているでしょうか。

赤ちゃんでさえ、あれだけたくさんのメッセージを大人に出している。

それを、どれだけ私たちは敏感にとらえて応答していくかということではなかったか。

そう思うと、ここに

「ヒトの意識の誕生」

というのをあえて演題にしたのは、そのようなことを考えたからなんです。

「応援上手な大人になる」

ということでまとめさせていただこうと思うんですけど、まず応援のタイミングはどうなのかなぁということを考えてみますと、今日私がお話する中で、大変たくさんの方々がうなずきながら聞いて下さいました。

つまり、私にものすごく勇気を与えて下さいました。

私はこういう図体をしていますけど、心臓は非常に小さいものですから、ドキドキしているんです。

そこでみなさんがうなずいて下さると、良かったと思いながらお話することが出来るんです。

こういう

「うなずき」

というのは、相手に力を与えるんだということを、多くの方々に気付いていただきたいと思います。

そして、妙な言い方ですが、戦後の教育の中で、

「親は欲目を持つな」

というふうにたくさん言われてきました。

でも親が欲目を持たなくなったら、いったい誰がその子のことをひいきして下さるんですか。

親だからこそ、

「あなたが一番」

というような部分があるんだと思います。

これは大事なことだと思うんです。

だから、みんなが客観的に見ようとする。

そういう中で、みんなが何か温かいものを忘れてきているような気がするんです。