『人生はこの一瞬の積み重ね』(後期)

お釈迦様は29歳で出家されて、6年後35歳で悟りを得たと言われています。

悟られて最初に説かれた教えは、縁起についてであったそうです。

縁起とは「縁」一定の条件がととのって、「起」現象が起こってくる、という起こり方をいいますが、この道理を理解するためによく種と実にたとえられます。

種が芽を出すためには色々な条件が必要です。

種子を土に播くことも条件の一つです。

太陽の光も温度も必要です。

水分も空気も養分も必要です。

数え上げたら必要な条件はたくさんありますが、これらの条件の一つでも欠けたら芽は出ません。

芽が出て成長し、花が咲き実が出来るその過程の一つひとつにおいても、同様に色々な条件を要します。

条件がととのってはじめて草も木も生長します。

それは草や木だけではなく、全ての動物も私という人間も同じ事ではないでしょうか。

この世に生を受けた私、今日まで生きてきた私、どれほど多くの人やものや自然の力を頂いたことでしょうか。

これが縁起です。

東大名誉教授の中村元先生は、今仏教学者として活躍されていますが、その先生が

「自分が長生きしてきたということを反省してみると、それは自分自身の力ではなくして、実に数限りない多くの方々のお力がはたらいていた。

力を貸してくださった人、私を助けてくださった人、今この世の中におられない方もたくさんおられますが、そういう方は、消えてなくなってしまったわけではありません。

私なら私という、このひとりの限られた人間存在の中に、多くの人の力が生きてはたらいている。

そういうことを思うと、一日一日といえども、あるいは一時間といえども無駄にしては申し訳ないという気持ちがいたします」

とおっしゃいました。

私たちの人生も振り返ってみると好いこと悪いこと、嬉しいこと悲しいこと色々なことを思いながら毎日を過ごしてきましたが、どの一日も今の私には大事な意味のある(条件)一日で、その積み重ねが今日の私(結果)なのではないでしょうか。