(佐々部)
映画の撮影の裏話でいえば、「敬天愛人」という額縁が傾いたとき、聖志郎さんが鹿児島弁で「西郷さん、すみません」って言いますよね。
(西田)
額縁の位置を戻し、汚れを払いながら背中を向けて、「西郷どん、すんもはん」ですね。
(佐々部)
みなさんが笑われたあのシーンなんですが、実はあのセリフは撮影の現場では録ってなかったんですよ。
撮影を終えて編集しているとき、あそこでどうしても「西郷さんすみません」というセリフを入れたいと思ったので、急遽、聖志郎さんにスタジオに来てもらい、謝るセリフを入れてもらったら、あの一連の流れで笑いが起こりました。
撮影しているときは分からないんですが、作っているうちにそういうアイデアがどんどん出てきて、ああいう笑いのシーンができました。
(西田)
台本にはないセリフでしたからね、この作品は2009年から舞台でも全国を回っていたのですが、そのときも鹿児島の偉人たる西郷さんに申し訳ないなあとずっと気になっていたんです。
しかし、映画でこのセリフを入れようとなったとき、急に気持ちが楽になりました。
映画というのは、ちょっとしたそういう積み重ねで世界が変わるんだなあということを実体験させていただきましたね、
(佐々部)
三姉妹は、この鹿児島も大好きになってくれたんですけど、この映画自体も大好きになってくれています。
普通はこんなことはほとんどないのですが、吹石一恵さんと吉田羊さんと徳永えりさんが、3人で予定を合わせて、六本木の映画館に顔を隠して見に行ってくれたそうです。
なかなかそんなことを俳優しません。
本当の姉妹のように3人が仲良くなってくれたんです。
でも、完成した映画を見に行って、黙って帰って来たっていうんですよ。
「なんで舞台挨拶してこなかったんだ」と言いました。
そんな風に、この映画に出演してくれたみんなが、この映画を好きになってくれているんです。
(西田)
この映画が顔を隠して六本木の映画館に行ったという話しを後から聞いて、栄が「かるキャン」をつくった最後のシーンで、背中を向けて泣いていた眞平以上に泣きましたね。
いい家族に恵まれて、本当に幸せだなと感じた瞬間でした。
(佐々部)
なぜ、背中を向けたかというと、アップに耐えられなかったからですね。
この映画が、毎年の六月燈のときに上映されたりして、鹿児島の宝物のようになってほしいと思います。
『六月燈の三姉妹』
鹿児島死にある真砂商店街の中の菓子屋「とら屋」の一家を描いた映画。
《概要》
昔ながらの商店街の中にある家族経営の和菓子屋「とら屋」は、時代とともに客足が遠のき、経営不振に陥っている。家族がそれぞれ離婚歴や婚約破棄などの事情を抱えながら、店や商店街を盛り上げるため、「六月燈」の夜に新作和菓子「かるキャン」で起死回生の大作戦に出る。
《物語》
和菓子屋「とら屋」の次女・奈美江は、東京で税理士事務所を経営する夫と共に暮らしていたが、離婚調停をきっかけに鹿児島の実家に戻ってくる。実家の「とら屋」は経営不振だが、地元の夏祭り六月燈で新作和菓子を発表するために忙しい。そこへ奈美江の夫・徹が奈美江を追いかけて鹿児島へやって来る。徹も六月燈まで「とら屋」の手伝いをすることになり、家族は一つの目標に向けて力を合わせていく。