ご講師:為末大さん(元プロ陸上競技選手)
今日は、私が25年間、現役で陸上競技に取り組んできて、その中で学んだことや困難にぶつかったときにどうやって乗り超えたかということについてお話をしたいと思います。
私は、競技生活の中で何回もスランプに陥りました。
そのときの心境というのは
「もうダメだ、どうしようもない」
と自分自身で
「もうおしまいだ」
と思うのですが、スランプを脱したときには
「いやあ、あのときそう思い込んでたけど、終わってみたら、まあなんとかなったな」
という気持ちに変わってるんですね。
このときの状況というのは、認知心理学、視覚の心理学テストで使われる絵の見え方などによく似ています。
なんらかのきっかけで糸口が見つかると、後はスルスルスルっと、気がつくともう自動的に抜けるようになるのですが、最初の糸口が見えるまでは本当に苦しいわけです。
それで、この見方をどう変えたらいいのだろうかということを、私は現役時代ずっと思い続けてきました。
皆さんは、「靴の営業マン」の話を聞かれたことがありますか。
靴の営業マン2人がある島に靴の営業に行きますが、島に住んでいる人たちが皆裸足だったのです。
そこで、1人の営業マンは、上司に
「大変です。この島には靴を履く文化がありません。だから靴をいくら持ってきても売れません」と伝えました。
もう1人の営業マンは
「大変です。この島にはまだ誰も靴を履いてる人がいません。これから皆が靴を履く可能性があるので、どんどん靴を送ってください」
と上司に要請したのです。
同じ状況であっても見方や考え方によって展望が全く違ってくるという話です。
スポーツの世界は思うようにならないことが多いのです。
4年間一生懸命やってきてもオリンピックの直前にケガをしたり、一生懸命努力して頑張ったけれどもレギュラーから外されたり・・・。
しかしそういうときには見方を変えて、他にやる道があるんじゃないかと考えていくというのを私はこの世界で学びました。