大膳と権之助のふたりから、平次郎の常々の行状やきょうの出来事を、改めて、もいちど審(つぶ)さに話すと、親鸞はいちいちうなずいて聞いていたが、
「どうじゃろ」
と、親鸞は、領主の大内国時へ謀った。
「その平次郎とやらいう者、なんとか、このたびだけ、免じてやるわけにはなりませぬかの」
国時は、意外な顔して、
「せっかくながら、今も家来どもの怠慢を、叱っておったほどの者でござる。上人のご広徳をもってしても、救われがたい無頼の徒、お聞きながしてくだされい」
「だがの……」
親鸞は、未練のように、
「招いても、縁のない衆生さえあるに、この伽藍の造営に、柱の一つ穿った者でも、わしの眼から見ると、まことに浅からぬ仏縁のある者」
「悪を懲らし、罰を明らかにせねば国守の法も立ちませぬ」
「ごもっともでござる」
親鸞は、国時のことばを大きく肯定しながら、すぐにまた、
「しかし、国法のこころは、人を罰するをもって、最高なりとはせぬものでおざる、罰法は元、それによって、兇悪の徒(ともがら)も真(まこと)の道に生き直るための罰でなければなりません。――この御堂が、真の生きた、伽藍であるならば、此堂(ここ)をめぐって、造営に働く人たちも、いつか必ず仏縁のご庇護によって、精神(こころ)のうちに、弥陀の慈光(ひかり)をうけねばならぬはずと存じます。……宥(ゆる)しておやりなされ、親鸞に免じて、お聞き届け願わしゅうござる」
「…………」
国時は、考えこんだまま、即答を与えなかった。
親鸞は、足を運びかけて、
「では、大内殿。旅の支度もあるで、わしは、今日はこれで戻ります」
「お戻りか」
国時は、顔を上げて、五、六歩親鸞のあとに尾(つ)いて送って行きながら、
「ただ今のおことばによって、今日の罪人は、宥してつかわすことにいたしまする」
といった。
親鸞は、自分のことのように、
「かたじけない」
と、足を止めて、国時へ向って頭(かしら)を下げた。
親鸞が戻って行くと、間もなく、城主の国時も館へ帰って行った。
大工棟梁の広瀬大膳と、奉行の藤木権之助は、
「命冥加な奴めが」
と、捕えておいた河和田の平次郎の側へ来て、懇々と、説諭を加え、
「上人の有難いお旨を、忘れるでないぞ」
と、いい聞かせた上、縄を解いて、放してやった。
「へい」
平次郎は、神妙そうに、頭を下げて、逃げるように、丸太足場の上へ登って行った。
――だが、役人たちの眼から離れると、彼はすぐいつもの兇悪なひねくれ者に返っていた。
「ちぇっ、ふざけやがって。誰も生命(いのち)を助けてくれとはいやあしねえ、おれがいなくっちゃ造営の仕事に困るから助けて置くんだろう、それを恩着せがましくいやがって笑わせるな」
その日は、ろくに仕事もしなかった。
彼を使っている大工頭も、彼にだけは、叱言(こごと)もいえないで、見ぬ振りをしているのである。