「法要の裏側」

お寺での法要といえば、春秋のお彼岸や報恩講など、年間の中で恒例法要としてお迎えするものと、例えば、本堂などが新築されたときに勤める「落慶(らっけい)法要」や、住職が交代、代替わりする場合の「住職継職法要」といった何十年に一度、節目や記念のときなどに大々的にお勤めされる法要もあります。

そのような大きな法要をお迎えするときは、住職一人ではとても準備ができませんので、他の僧侶に法要や儀式等の責任者をお願いする場合があります。

その法要の責任者のことを「会奉行(えぶぎょう)」、または「会係(えがかり)」と呼びます。

会奉行の役割は、法要当日はもちろんですが、それ以前から法要に向けての打ち合わせ、準備が始まります。

まず住職とともに法要の流れを決めていきます。

法要の主旨は何か、何を伝えたいか、どんな法要にしていきたいか、どのように魅せたいかなど、住職の意向に沿いつつ会奉行として提案や助言、アドバイスを行い、法要の差定(さじょう)を決めていきます。

差定とは、法要でお勤めする内容とその流れなどを一つひとつ詳細に記した、いわば式次第、プログラムのようなものです。

この差定に則って法要が進んでいきますので、まずこの差定作りが最も大切な会奉行さんのお仕事です。

差定が決まればいよいよそれに向けての準備に取りかかります。

法要で用いる法具(仏具類)や衣体(着用するお袈裟や衣)の確認、差定に沿った司会原稿の作成、お内陣の荘厳(御供えやお飾り)から本堂のセッティングにいたるまで、いろいろなことを想定しながら準備をし、何日もかけて法要を迎える環境を整えていくのです。

住職も忙しいですが会奉行も同じぐらい大変です。(笑)

そしていよいよ法要当日。

本堂内の設営や法要に関する部分は住職に代わり全て会奉行が責任を持って進めていきます。

出勤する僧侶の控室に差定を並べ、出迎えから着替えのお手伝いも会奉行のつとめです。

法要開始前には出勤する多くの僧侶を前に会奉行自ら「差定説明」をします。

法要の流れや僧侶の動き、どこに座るのか、誰に動きを合わせるのかなど、「丁寧」に「簡潔」に「分かりやすく」説明しなければなりません。

ここでしっかりと差定が出勤僧侶に伝わっていないと、いざ本番の中で動きがバラバラになったり途中で止まってしまったり、ハプニングの要因となるので、会奉行の手腕がここで試されるといっても過言ではありません。

そして法要開始直前、お内陣のお灯明やお香、マイクのスイッチなど不足がないか最終の確認をし、出勤僧侶を本堂へ誘導。

静寂と緊張の中、相整いましたところで法要の開始を告げる鐘、「行事鐘」を打つ指示を出します。

例えるならば自分のプロデュースする法要が、自分のゴーサインによっていよいよ始まるのです。

ここまで思案を重ね、準備を整え、住職から命を受け、会奉行として自らが作成した差定のもとにいざ法要が始まる瞬間。

万感の思いで行事鍾の第1打目が「カーン」と鳴り響くのを聞くと、感慨深いものがあります。

しかしこれからが始まり。

ご参詣の皆さんから直接は見えませんが、法要の最中も本堂の裏に控え、出勤の僧侶から見える位置で、時には自ら動作を交えて作法や次の動きなどを僧侶に細かく指示を出し、滞りなく差定通りに法要が進むよう気を配ります。

法要終了後も出勤僧侶へのお礼のあいさつ、また次の儀式や式典、ご法話の準備など慌ただしく動き回り、全ての予定が終了し、最後本堂を元の状態に戻してようやく会奉行としてのつとめが終了します。

企画、準備から後片付けまで、最も長く法要に携わるのが会奉行という役割、立場であります。

法要の表舞台はもちろん住職や導師、出勤僧侶であり、ご参詣の皆さまお一人お一人ですが、見えない部分で法要を支える会奉行や会係といった僧侶の存在があります。

今後もし大きな法要に参拝する機会がありましたら、黒い衣を着てちょこちょこと動き回る僧侶を見かけたら、あ、あの人が会奉行さんかなと、また違った視点で法要を見てみるのも楽しいかもしれません。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。