思い通りにしようという思いが 苦しみを生む

「定年後は趣味の園芸を楽しもうと思っていたのに、野菜はうまく育たないし、花も思うように咲かない。こんなはずじゃなかった」

60代の男性からこんなお話を伺いました。長年会社で責任ある立場にいらした方で、物事をきちんと管理し、計画通りに進めることに慣れていらっしゃいました。

しかし、植物を相手にした途端、今まで通用していた方法が通じません。水をやりすぎて根腐れを起こしたり、肥料を与えすぎて逆に弱らせてしまったり。「なぜ思った通りに育たないのか」と、ついイライラしてしまうとおっしゃいました。

でも、その方は続けてこうも話されました。「最近になって、植物には植物のペースがあることが分かってきました。私が急かしても仕方がない。むしろ、毎日の小さな変化を楽しむようになったら、園芸が面白くなってきました」

現役時代は「結果を出す」ことが重要でした。しかし人生の後半戦では、結果よりもプロセスを大切にする生き方があるのかもしれません。

仏教には「他力」という言葉があります。自分の力だけでは限界があることを認め、自分を超えた大きな力に身を委ねるという意味です。これは諦めることではなく、かえって自然体で生きることの大切さを教えています。

思い通りにならない人生の中にも、きっと思いがけない発見や喜びが待っています。肩の力を抜いて、今この瞬間を大切に歩んでいきたいものです。