ご講師:近藤 勝重 さん(毎日新聞夕刊編集長・東京)
感動を覚えると、人間、ヤル気が出てきたり、とにかく常に前向きで生きられます。
ドーパミンなど脳内物質の作用でしょうね。
大体女性の方が男性に比べてよく泣きます。
感情反応が豊かだからです。
男性は月に一、二回。
女性は五、六回泣くそうです。
人間の体内から出るいろんな物の中で、涙だけはきれいです。
涙っていうのは違うんですね。
泣いてスッキリすれば、またやろうという気になるんです。
涙は人間の体の中で特別ですね。
やっぱり心が洗われて泣くわけですから、汚いわけがない。
感涙っていうでしょ。
しかも感動したことは忘れないんですね。
感動は絶対過去形にならない。
だから感動と一緒覚えたことは、生涯それを覚えてるんです。
私が『サンデー毎日』の編集長のとき、高倉健さんが好きで、健さんのロングインタビューをとにかくやりたかったんです。
下手な字で、墨で何枚も健さんに手紙を書きました。
そしたら来ましたよ、速達で返事が。
「ご一緒したいと思います」。
大感動でしたが、その直後、私が病気しまして実現できませんでしたが。
いや、いろんな感動がありますけれど、とにかく感動って本当に忘れません。
それに感動したことは人に話したくなる。
感動は独り占め出来ないんです。
こんな話があります。
東京の下町ですけど、そこの和菓子がおいしいんですね。
それが口伝えに広まって、「あそこの和菓子おいしいわよ、感動の味だわよ」と。
それからだんだん行列が出来始めて、そのうち並んでた女性たちが仲良くなって旅行に行ったそうですよ。
私の体験ですが、栃木県の山の中で、きのこ狩りか何かの女性の集団とバスの中で出くわしたんですけど、女性のグループはにぎやかです。
女性の会話を男性はぜひ聞いてみたらいいと思いますね。
「まあ、おや、あら、そう」、本当に感嘆、感銘、尽きせぬぐらい感動詞の連発。
一緒に乗っているお父さんは何をしているのかというと、バスの外をぼんやりと見ているだけ。
いや、これでは男は女より長生き出来ないと思いましたよ。
心の動かし方が全然違う。
これは大脳生理学的に説明がつくんだそうですね。
脳に左脳・右脳ってありますね。
人間の左脳っていうのは理論的・言語的な分野をつかさどっていて、右脳の方は、感情的・芸術的な分野をつかさどっているというふうに説明されるでしょ。
その間に脳りょうというパイプが出来ていまして、女性はこのパイプが男性よりはるかに大きいんだそうです。
そのぶん感情の交感が豊かなんです。
だから泣く、ストレスを発散するのも速い。
ご主人が亡くなって三回忌が過ぎると、もうキラキラ光り出します。
今日もお父さんたちいますけど、私も注意してるんです。
女房が夕日を見て、「お父ちゃん、夕日きれいやね」言うと、以前の私でしたら「何が夕日や」で済ましてた。
これではいけませんよね。
いろんな体験を得てきますと、
「ほんまやなあ。お前、夕日いうのは一期一会いうて、一回しか同じ夕日見られんねん。よう見とこ」
こうなりますもんね。
そしてフッと振り返って、「お前いつ見てもきれいやなあ」って言うと、これで一年間は大丈夫やろというのはともかく、まあ、それぐらい自然を見て感動を分かち合うことは大切なんです。
大阪の天王寺区に夕陽丘という所があります。
昔は四天王寺の向うに大阪湾も見えたそうですが、夕陽丘から眺める夕日は本当にきれいなんです。
私は病気していろんなことがわかりましたけど、人間は自然を保護するだの、地球にやさしいだの言ってますね。
結局のところ、人間は自然にやさしくされている、自然に保護されているだけだといったことはすぐわかりますね。
朝起きると、カーテン越しに風がスッと入ってくる。
小鳥の鳴き声がチチチと聞こえてくる。
朝日が差し込んでくる。
その瞬間瞬間に生きてるんだなって思います。
自然と一体感なくしては生きられないなんて当たり前のことなんですね。
ですから自然を見て感動しなくなったら我々は終わりですよね。