「彼岸」か「シルバー」か

新型コロナウイルスの第5波がおさまってきました。今までになく感染の怖さを身近に感じた、今回の流行でした。夏休み、オリンピック、お盆と人の集まる時期にやってきた第5波は秋のお彼岸を挟んだ連休まで続きました。この秋のお彼岸の時に、私の住んでいる市では、「明日からのシルバーウィークは家でゆっくり過ごしましょう」という放送がありました。これを聞いて、「シルバーウィークってそんなに定着した言葉なの?」と思ったのは私だけでしょうか。

シルバーウィークとは、秋のお彼岸の中日(秋分の日)と敬老の日がくっついてできた連休です。それは、ほとんどお彼岸の一週間とも言っていい期間。どうして最初に「彼岸ウィーク」と言って下さらなかったのでしょう。5月の「ゴールデンウィーク」に対応して作られた言葉なのでしょうが、このままでは「彼岸」という言葉が消えてしまいそうで怖い気がします。

お彼岸の中日「秋分の日」は、1948年(昭和23年)に公布・施行された国民の祝日に関する法律によって制定されたそうです。同法第2条では「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」ことを趣旨として定められています。お彼岸の行事自体はもっと歴史が古く、聖徳太子の頃から始まったともいわれ、江戸時代には人々に定着していたようです。今ではご連絡を差し上げなくとも、ご門徒の方々がお彼岸の入りになるとお寺にお参りにいらっしゃり、お墓にもお参りされています。

でも、これを知っている若い方はどのくらいいるのでしょうか。学校でも「お彼岸」を取り上げることはほとんどないようです。ただの連休として扱われていることが多く、このままでは日本固有のこの行事も次第に忘れられていくのでは、と感じています。せっかくお彼岸の中日は祝日として、皆さんがお墓やお寺にお参りできるようになっているのに、「お出かけの日になってしまうとは…」。心の病気が増えている昨今、ご先祖様の供養をきっかけに自分を見つめる一週間としてもらえれば、かなり日本は変わりそうだと思うのですが。

そう思っていましたら、あるスーパーの店内放送で、「9月20日からはお彼岸です。これは日本特有の仏教行事で、ご先祖を敬う大切な日です。」と言っているではありませんか!よくよく続きを聞くと「お供えには当店のおはぎや新鮮な果物を・・・」と続きましたが、ここに希望の光を見出した気がしました。「彼岸ウィーク」という言葉を誰か流行らせてくれないものでしょうか。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。