「人生のトリセツ」

先日受講したある研修会の中で、ご講師の一人が「仏教は人生のトリセツ」ですと発言されました。聞いた瞬間「えー、仏さまの教えをトリセツって言うなんて軽い!」と思いましたが、間を置かずして「待てよ」という思いが湧いてきました。

トリセツとはご承知のように「取扱説明書」のことです。電化製品でも家具その他、購入すれば必ずとついています。手に入れたものを安全に間違いなく使うための手引となるものです。

私たちの人生は決して平坦なものではありません。山あり谷あり、いいこともあれば思うようにいかない時もあります。そんな人生に仏さまの教えという「道しるべ」があれば、時に迷うことがあっても、大きく踏み外さずに生きていけることでしょう。そうであるならば、人生のトリセツという表現もあながち間違いではないのではないか。むしろ現代人にとっては、ストンと腑に落ちる表現なのではないか。「うん、悪くないかも」と思ったものでした。

ところで、今年の夏はいつもに増して暑い夏でした。クーラーの設定温度も推奨された28度ではなく26度にすることもしばしばでした。そして、全国各地で頻発する災害。これらの大きな要因になっているが、便利さを求めてやまない私たちの生活様式にあるのは間違いないでしょう。

私たちの社会は、いわば欲望や好奇心のアクセルを踏みっぱなしの状態です。アクセルを踏み続ければどうなるか。言わずと知れたことです。前に進めためにはアクセルを踏まないわけにはいきませんが、そうであればスピードを制御する高性能のブレーキが必要になります。

欲望や好奇心の中身を立ち止まって吟味し、「危ない」と判断したら歯止めになるブレーキ。それは、誰かに言われたからそうするとかではなく、自らを律する「内なるブレーキ」でなければなりません。そして、そのブレーキとなるものが仏さまの教えだといえます。

「取扱説明書」も、私たちの身勝手な扱い方にブレーキをかけ、正しい方向に導くものです。あなたは、日頃きちんと目を通しておられますか。もしかすると、ほとんど読まずに引き出しとかにしまったままになっていることが多いかもしれませんね。

「取扱説明書」は、手にして読まなければ何が書いてあるのか分からないのと同じように、仏さまの教えも聞かなければその素晴らしさは分かりません。何かと忙しい毎日ですが、折々に努めて「人生の道しるべ」ともいえる仏さまの教えに耳を傾けたいものです。なぜなら、仏さまの教えはどこかの誰かのことを説いているのではなく、まさに私の生活に則した頼もしいトリセツに他ならないのですから。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。