ご講師:前田一郎さん(MBCウェザーキャスター)
天気予報の仕事をしていますと、時々人間のおごりを感じてくることがあります。
けれども、自然を相手にしていますと、全部あててやろうという気持ちはまったく消えてしまいまして、ほんの一部でもいいから教えていただきたいといった感じになってまいります。
梅雨の話をしますと、梅雨は東アジア特有の天気です。
簡単に言いますと、これまでの冬の天気から夏の天気に変わるちょうど境目で、鹿児島では大雨が降って本格的な夏になるというのが、例年のパターンです。
そして梅雨明け時期になりますと、気象庁が「梅雨明けをしたと見られます」と、ちょっと回りくどい梅雨明け宣言をします。
これは気象庁の専決事項といいますか、発表する情報になっているんです。
ただ気象庁が「梅雨明けですよ」と言おうが言うまいが、天気はちゃんと変わっていきます。
でも、私たちが思うようには変わっていきません。
皆さんそれぞれに「夏になった、夏の備えをしよう」とお考えになってもいいと思いますが、多くの方は、テレビやラジオなどで早く梅雨明けを言ってもらいたいという考えがあるようです。
何かをよりどころにして季節を共感したいという思いがあるのかもしれませんね。
梅雨を気象の世界で見ますと、確かに現象としては、東アジアの非常に狭い範囲の現象なんですが、実は地球規模で、地球が太陽の周りを回っていて、ちょうど今から北半球は夏、南半球は冬、これが半年としますと逆になるといった大きな流れの中で気流が変わっていき、それで梅雨という現象が起きてくるわけです。
ですから、私どもが天気の変化を見るときは、鹿児島の辺りだけではなくて、東南アジア、それからインド洋辺りまでの雲の動きを気にかけて、「梅雨入り、梅雨明けはそろそろだなあ」ということを考えているわけです。
天気予報というのは、ほとんどがコンピューターに基づいた結果を、その地方に合わせていろいろ処理をするというスタイルですが、時々「しまった」と思うことがあるんです。
といいますのは、会社に貼ってある天気図を見て、それからパソコンのディスプレイを見て仕事をしているんですが、ふと気が付くと外を見ていないんですよ。
外も見ないで天気予報をしていることがあるんですね。
これが私としては「しまった」と思うことなんです。
昔気象庁にいたときは、まず仕事場で起き、屋上に上がって空の変化を見て仕事をしていたんですが、最近は横着になったのか、外を見るのを忘れてしまうんです。
天気の変化、あるいは季節の進みといっても、これは当然建物の外の現象です。
それを見ないでああだこうだと言うのは、大変おかしな話なんです。