四十二回
鹿児島門徒の信仰(その4)
―カヤカベ教―
ところで、カヤカベ教は厳密な秘密結社でしたが、四十年ほど前、龍谷大学宗教調査団がカヤカベ教の調査を行いました。
その時、カヤカベ教徒にあっては秘密を守ろうと緘口令がしかれました。
しかし教徒の中に調査に協力して、教団の内情を話してくれる人も出てきました。
ところが、その人のお父さんが亡くなった時、教祖の奥さんに「私の父親は何時間でお浄土へ到達したでしょうか?」と訊ねました。
ところが「それは、分からない」ということでした。
お浄土へ行ったかどこへ行ったか分からないということで、行方不明にされてしまい、この方は大変深刻に悩んでおられました。
大変申し訳ないことをしたことでございました。
教団の申し合わせに背いて他人にカヤカベ教団の内情を話したという咎で、お父さんが行方不明にされてしまったのでした。
このようにして、カヤカベ教の教徒たちにとって、浄土への憧れと共に、教団の申し合わせや世間の道徳を守らなければどこへ行くか分からないといった不安が一つの呪縛となり秘密は厳守されてきたのでした。
ここにカヤカベ教が、秘密結社として現在まで連綿として受け継がれてきた一つの理由をここに窺うことができます。
ところでこれは、この「カヤカベ教」といった一つの秘密結社の例ですが、このような浄土への憧憬は、程度の差はあるとしても、カヤカベ教に限らず広く薩摩の隠れ門徒にも共通するものであり、彼らが厳しい取り締まりを受けながら、なお執拗に念仏を相続した一つの要因でもあろうかと考えられす。
また逆に念仏を放棄すれば浄土に往くことができないといった恐怖もあり、これもまた鹿児島の門徒が念仏を放棄できなかった一つの理由にあげても良いのではないかと思います。