2月下旬、カンボジアの首都プノンペンにおいて、日本とカンボジアの外交樹立65周年を祝う記念イベント「絆フェスティバル2028」が開催され、そのオープニングセレモニーに日本文化を代表し、浄土真宗本願寺派の声明と雅楽を披露させていただく機会に恵まれました。
カンボジアの国務大臣や各国大使館、政府関係者で満員の会場の中、ただならぬ緊張感をひしひしと感じながら、トップバッターとして、そして日本の僧侶としてステージにあがりました。
今回このような場に招待していただいたのは、ある1人のカンボジア人女性との出会いからでした。
私が学生時代の仲間と共に15年ほど前からプノンペンにあるNGO学校を応援しており、そこで出会ったのが彼女でした。
当時はまだそのNGO学校で日本語を学ぶ学生さんでした。
卒業後もNGO学校に残り、日本語の教師として指導しつつ、その間自らも継続して一生懸命日本語を学び、遂には在カンボジア日本国大使館に現地スタッフとして就職しました。
私たちが毎年カンボジアに行くたびに、いつも日本や日本人のこと、言葉や心というものをとても熱心に尋ねてくる彼女の姿が印象的でした。
「こういうときはどういう言葉を使いますか?」
「こういうときだったら、どんな気持ちがしますか?」
など、日本人の私たちでも普段気にも留めないようなことも真剣に問い、頷き、学び取ろうとするその姿には、本当に頭の下がる思いでした。
その彼女が今や大使館職員として、大好きな日本とカンボジアの外交樹立記念イベントの企画を任され、自分がこれまでお世話になった皆さんを是非ご招待したいという思いのもとに、今回出演をさせていただいたので、私たちも感慨深いものがありました。
冒頭でまず「三帰依」をお勤めしました。
これは世界共通の仏教徒のお勤めです。
特に仏教国といわれるカンボジアでは、大人はもちろん子どもたちまで知らない人はいないくらい、誰もが慣れ親しんでいるお勤めです。
この三帰依を私たちが唱え始めると、緊張感漂う会場のみなさんの表情が変わるのがステージ上から見ていてもよく分かりました。
みんな一様に
「あれ、日本も一緒?」
「カンボジアも日本も同じだ」
実際にそういう声が聞こえてきた訳ではありませんが、みなさんの柔らかく穏やかな表情から、何となくそう伝わってくるものを感じ、中には手を合わせて合掌し、一緒に口ずさんでいる方も多くおられました。
まさに「仏教徒はみんな友だち」
仏さまの心を大切に仰ぐカンボジアの人たちのあたたかさに包まれながら、無事にトップバッターの出番の務め果たすことができました。
以前カンボジアのお坊さんに、おもしろいなぞなぞを出されました。
それは「世界で最も古い歌は何ですか? 歌手は誰ですか?」というものでした。
尋ねられたその時は思いつく限りの大昔の歌手や童謡的なものばかりしか頭にイメージできなかったのですが、カンボジアのお坊さんから返ってきた答えが心憎いまでに素敵でしたので紹介したいと思います。
あくまでもなぞなぞです。
さて、いったい誰だと思いますか。
答えは、世界で最も古い歌は『お経』
最も古い歌手は『お釈迦さま』
私は、この答えを聞いて実に言い得て妙だと思いました。
今からおよそ2500年前のお釈迦さまの言葉が、今でもお経として現代まで伝わっています。
これまで世界中の僧侶や仏教徒によって、お釈迦さまの教えが語り継がれ、まさに歌のように歌い継がれ、幾千年の時代を超えて今に伝わってきているのがお経です。
カンボジアのお坊さんのユーモアに、ちょっとした視点の変化から仏教を見ていく、感じていくこともまた大切ではないかと教えられたような気がします。