歴史認識に横たわる朱子学の弊害

隣国の中国や韓国との間で、歴史認識の相違がしばしば問題になります。

そして、そこには中・韓両国の歴史認識の背景にある儒教思想、端的には朱子学の弊害が影響を及ぼしているといわれています。

朱子学というのは中国の南宋時代に朱熹(1130年-1200年)という人が、儒学をもとに生み出した思想体系です。

朱子学が誕生した背景には、朱熹が生きた南宋という時代が大きな影響を与えています。

中国は907年に栄華を極めた唐が滅亡した後、五代十国と呼ばれる分裂の時代に入ります。

その状態をまとめて960年に統一王朝を建てたのが宋です。

この宋の時代の中国は、歴代王朝の中で漢民族が軍事的には極めて弱く、北方に位置する金という遊牧民族国家によって圧迫を受けていました。

そして、1127年にはついに首都・開封を含む華北の地を奪われ、皇帝の家族と大半の皇族、数千人の官僚が捕虜として連れ去られました。

この時に亡んだ宋を北宋(960年-1127年)といい、難を逃れた皇帝の弟が建てた宋を南宋(1127年-1279年)とよんでいます。

宋は、南宋の時代になっても依然として金に圧迫され、華北の地を取り戻すこともないまま、ついには元によって滅ぼされてしまいます。

よく知られているように、漢民族には自分たちこそ世界の中心に位置する文明人で、周囲の異民族はすべて野蛮人(東夷・北狄・西戎・南蛮)だとみなす「中華思想」があります。

それだけに、野蛮人だと見下していた他の民族に皇帝以下多くの人々が連れ去られ、華北の地を奪われたまま圧迫されて続けている状態は、屈辱以外のなにものでもありませんでした。

けれども中華思想を持つ南宋の人々にとって、このような情けない事実はとても認めがたいものでした。

そこで「遊牧民族に負けた」という直視し難い現実から逃避するために、目の前の現実を無視し、極めて観念的な思想体系を構築したのが朱熹です。

朱子学の問題点は、「実際はこうだ」ではなく「こうあるべきだ」から始まり、次に「こうだったはずだ」となり、最後には「こうだった」と変化してしまうことです。

これが歴史認識の根底に据えられると「こうであってほしい」とか「こうあるべきだ」という自らの理想が最初にくることになります。

例えば、韓国は1910年から1945年まで日本に併合されていましたが、この間に日本は鉄道を作ったり、男女平等の学校制度を作ったり、韓国独自のハングル文字の使用を推奨し普及させたりしました。

ところが、韓国では「それらは日本の影響を受けなくても自分たちの力でできたことだ」としています。

そのことについて明確な根拠はないのですが、「こうであってほしい」「こうあるべきだ」という朱子学の考え方が根底にあると、当然そういう発想になってしまうわけです。

中・韓両国では、明らかに歴史の改鼠としか思えないことが平然と行われています。

なぜなら朱子学の影響を受けている両国では、歴史認識においても「こうあるべきだ」という自らの理想から始まり、「こうだったはずだ」として事実が改変され、最後には「こうだった」という内容に書き換えらてしまうからです。

そして、捏造したことが、あたかも事実であったかのように主張されます。

それは、自分たちの信じたいことを歴史的な事実であったとして主張し信じようとしいると言えます。

客観的に見れば、それは歴史の捏造以外のなにものでもないのですが、両国の人々は「あるべき姿に戻してただけのこと」だと、自らの正当性をどこまでも主張します。

これでは、いくら中・韓の両国と歴史問題についての協議を重ねても、なかなか合意が得られないのは仕方のないことだという気がします。

中国・韓国とは領土問題においても、尖閣諸島や竹島をめぐって見解の相違があり、依然として平行線のままですが、その根底にもやはり朱子学の思想が影響しているように思われます。

両国においては、歴史上の事実を検証することよりも「我が国の領土であるべきだ」という理想論から展開されるので、日本が文献等を根拠に正当性を主張してもそれらは考慮すべき対象として見向きもされないからです。

アメリカの歴史学者に「日本の歴史は歴史であり、中国の歴史はプロパガンダ(宣伝)であり、韓国の歴史はファンタジー(幻想)だ」といった人がいますが、まさに言い得て妙だなと思います。

歴史認識の相違の根底に朱子学の弊害があることは明白なのですが、両国がそれを是としている間は、共通理解を得ることは極めて難しいようです。

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