「人間とはね」(下旬)生きることは苦

総合人間研究所所長 早川一光さん

 若者と検査結果を比べて、肝臓の機能が悪い、腎臓の機能が少し落ちてる、貧血が少しありますよと、そんな悪いところばっかり見つけて病名告げてみなさい。

お年寄りは眼科行ったり、耳鼻科行ったり、整形外科行ったり、胃腸科行ったり、循環器科行ったりと、病院内をカッカ回って帰ってきますやん。

それでここが悪い、あそこが悪いと荷物をいっぱい背負わされて、ショボンとして病院を出ていきますやんか。

 そんな悪いところばっかり言われて、ショボンとしたまま力尽きて出て行くような、そんなもんが病院か。

生き生きとして返すのが病院の仕事と違うか。

傷だらけになった身体を良くして病院のもんから出さすのが医者の仕事ですもん。

いっぱいがっかりさせて、いっぱい荷物背負わせて病院を出させたらあきません。

悪いところがあっても元気にして帰さなあかんでしょう。

 だからこの頃の診察は、どこかいいところが残ってないかと探して、「おばあさんの大脳はしっかりしている。

判断力もあるし、感性も豊かだ。

心臓もしっかりしている。

この若々しい頭と心臓さえあれば大丈夫」と言うてごらん。

おばあさんの目がキラキラっと輝いて、いそいそとして病院を出ていくんやで。

脳と心臓だけ守ってれば大丈夫て医者が言うたから喜んでね。

悪いところがあっても、それをいいところでカバーしていこうと、そうなって帰っていかれますやん。

それを見ててぼくは、これが医療なんやなあと思ったもん。

 病ばっかり気にして、「なんで私だけがこんな病気になった、なんで私だけがこんな苦しい目にあう」と、それを思ったときが病気だぞ。

病があるのかが当たり前、病のない人はいない。

みんな使って使って使いたおしてきた身体やからな、どこぞと悪いところはある。

病と病気は違います。

病は贓物の故障、それを気にしたときが病気。

だから病があっても一緒に付き合っていけ。

病があればこそ健康の喜びがわかると、ほんまにそう思って毎日暮らしてくれ。

 人間はいやなこと、悲しいこと、腹のたつことを並べたてたら、そりゃいっぱい出てきますよ。

だって生きていくという「苦」があるんだもん。

楽に生きるなんて思うほうが間違って。

生きることは苦ですやんか。

ずっと苦が続いているから、苦でないものに会うと、ものすごく楽に感じるのよ。

それは「楽」ではなくて、「苦」でないということ。

だから「楽」を探して「楽」に会おうと思って努力するな。

「苦」を求めて「苦」を乗り越えていこうと努力したら、必ず「楽」に会えます。

 人というものはお互い支え合って生きています。

もたれられている方が「いつまでも人の頭の上にもたれやがって、いい加減にせえ」なんてはずしてしまうと、もたれている方は倒れるけれども、自分も倒れてしまう。

だから隣の人の病気は自分の病気、お隣の人の悩みは自分の悩みと、ひしひしと思えるような人間が本当の人間なんです。