宗教評論家ひろさちやさんの著書
「昔話にはウラがある」
の中に、日本昔話ではお馴染みの
「ウサギとカメ」
のお話が登場します。
この話、日本ではカメを最初からなめてかかり、昼寝をしたウサギが、正直にコツコツ走り続けたカメに負けてしまいます。
その結果、怠けたウサギは悪者とされています。
ところが、この話は他の国では違う展開で語られています。
例えば、イランではあろう事かカメが影武者の弟を最初からゴールに立たせた上で競争に臨んだということになっています。
これでは、ウサギがいくら足が早くても、カメに勝つことは出来ないのですから、他者と比べてはいけないと諭すのだそうです。
では、ヨーロッパに目を転じると、フランスでは次のような展開が見られます。
ウサギは対戦相手がのろまのカメと知ると、勝ったところで自分の名誉にはなるまいと、カメを見下します。
そこで、出来るだけ遅く出発して勝利を得れば、自分の体面も保たれると考え、いよいよカメが決勝点に近付いたと見るや、矢のようなスピードで疾走しました。
ところが、何と一瞬の差でカメにゴールされてしまうのです。
つまり、相手と自分とを見比べて、怠けてしまったウサギが悪いということになります。
結論は、日本と同じといった感じですが、同じ話でも国柄によって、その意図するところが変わるものです。
さて、話は変わりますが、鹿児島県の指宿市では毎年
「菜の花マラソン」
が開催されます。
今年は、全国各地から17,400人もの人達が参加しました。
一般にマラソンといえば、参加者全員がゴールを目指して懸命に走る姿をイメージしますが、このマラソン大会では沿道に咲く菜の花を愛でながら走る人、中には奇抜な着ぐるみに身を包み談笑しながらコースを歩く人など、さまざまな姿でマラソンを楽しむ姿が見られます。
「頑張れ!」
「頑張れ!」
の競争社会にあって、勝ち負けにこだわることなく、また他と比べることもなく、昔話のカメに象徴されるように、コツコツと自分らしくある姿こそが、まさに
「精進」
そのものなのではないでしょうか。