平成30年3月法話 『花びらごとにその色の光かがやく』(後期)

平成27年にNHKにて福岡放送局製作(12作目)の「福岡発地域ドラマ ここにある幸せ」が放映されました。

脚本は岡田惠和氏で、かつてNHK朝の連続ドラマ(朝ドラ)の「ちゅらさん」「おひさま」そして「ひよっこ」(平成29年)を執筆されました。

舞台は福津市津屋崎で、「ここにある幸せ」は私にとってとても印象深い作品の一つです。

ドラマのあらすじをNHKのホームページによりつつ紹介します。

「自分の人生には…、何もない…。」東京に暮らす主人公・立川浩幸(松田翔太)はつぶやいた。

過酷なノルマと人間関係に疲れ、仕事を辞めてしまい、その上、同棲中の恋人からは愛想をつかされ追い出される。

そんな折、浩幸は、小学生時代の級友との約束を思い出し、福岡の小さな港町・津屋崎を訪ねた。

そこで、級友の母親・花田福子から級友の病死を知らされる。

そして、明るくてお話し好きな福子に気に入られた浩幸は、港、干潟、山など、様々な思い出の場所へ連れ回されていく…。

そこでかつての恋愛話や苦労話など、山あり谷ありの半生を聞かされる。

福子は「禍福はあざなえる縄のごとし」「悲喜こもごも」の半生を懐かしみ、笑い飛ばしてしまう。

振り返れば、みんな大切な出来事で無駄なものはなかったとでも言うように…。

そして、浩幸は泣いたり笑ったりしながら自問する。

「生きるってなんだろう?」「なんで福子さんは幸せそうなんだろう?」「自分の居場所はどこにあるんだろう?」・・・だが浩幸は、いつの間にか前向きな力をもらっている自分に気づく。

このようにしてドラマは展開していきます。

私は思いました。

このドラマの心地よさは何だろうかと。

そして私なりに気付きました。

福子さんは、浩幸が抱える生活の行き詰まり感(突然、小学校時代の友達が訪ねてくることからしても推測できる)をそのまま受け止め、そのことには直接に触れない。

浩幸の「僕には何にもない・・空っぽ」とのつぶやきに対しても、教訓めいたアドバイスもしない。

ただ浩幸のそばに寄り添いながら、これまでの人生を認めてくれています。

「あなたはあなたでいいのよ。そのままで」と。~「ここにある幸せ」

「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔」(仏説阿弥陀経)

「青い花は青い光を 黄色い花は黄色い光を 赤い花は赤い光りを 白い花は白い光りを放ち その香りは気高く清らかである」そのような浄土の世界は、真実のありようを示しています。

多くのいのちに支えられながら咲く花は、まわりの花のいのちと比較することはなく、その花の光の輝きは、お互いを照らし合っているのです。

お互いを認め合い、輝きを増しているのです。

まさしく、過不足なく「ここにある幸せ」に目覚める時、「花びらごとに その色の光が輝く」世界が開けてきます。

しかしながら、現実の日暮らしはどうかというと、多くのいのちに支えられているにも関わらず、「隣の芝生は青い」ではありませんが、自己中心、比較相対の世界で自らを見失い、空虚感の中「自分の人生には何もない。空っぽ…。」と嘆いています。

そんな私に寄り添い「あなたはあなたで輝いていますよ。」と呼びかけてくださる仏さまがおられます。

そこに「私の居場所」があります。

わたしと小鳥と鈴と (金子みすゞ)

わたしが両手をひろげても お空はちっとも飛べないが
飛べる小鳥はわたしのように 地面(じべた)をはやくは走れない
わたしがからだをゆすっても きれいな音はでないけど
あの鳴る鈴はわたしのように たくさんなうたは知らないよ
鈴と小鳥と それからわたし みんなちがってみんないい