2020年1月法話 『阿弥陀 ひかりといのちきわみなし』(前期)

元号が令和となって初めての正月を迎えました。振り返ると、私自身、昭和・平成の時代を生き、そして今、令和の時代を歩ませていただいていることです。

新たな年を迎えるにあたり、改めてこれまでの自分の歩みをかえりみて、より良き方向へと一歩いっぽ進んでいければと思うことです。

1月16日は私にとって忘れることのできない日です。一つ目は、浄土真宗の宗祖親鸞聖人が往生された日であること。そして二つ目は父が往生した日であるということです。この日は親鸞聖人を偲ぶとともに、父の姿を偲ぶ忘れようとしても忘れることのできない日となりました。何事も忘れやすい私に対して、決して忘れることのできないこの日に父がご縁を作ってくれたと頂くことです。

早いもので、今年で父の13回忌になります。1年いちねんその時の流れの早さを感じることです。私が実家のお寺に帰ってから5年ほど、父と法務等お寺のこと全般にわたり共にさせていただく時間を持てたことは有り難かったなあと思うことです。

父は癌の手術を受け、抗がん剤の治療を続けていましたが、一日いちにちと体力が落ち、食欲もなくなってきました。それで父もこのまま抗がん剤の治療を続けても直る見込みはないということをさとり、突然、「もう抗がん剤治療を止めて自宅に帰る」と言い、約1ヶ月を自宅で過ごしました。抗がん剤を止めると、食欲がもどり、ラーメン一杯を全部食べることができたことを本人もびっくりしいていました。

病院での生活が長く続き、ほとんどの時間をベットで過ごし、トイレに行く時くらいしか歩いていなかったためだいぶ足腰も弱くなってきていました。しかし、帰って来てからは、境内を散歩するくらいまでになっていました。ある日、調子の良い日に散歩をして戻って来たときに、父が「今日は調子が良くて昔のように歩くことができた。昔はこうして歩けることが当たりまえと思っていたけれどもそうではないということを病気になってはじめて気付いた。人間というのは愚かやなあ。病気になってみないと健康の本当のありがたさに気付けない。しかし、この癌という病気になって改めて自分の愚かさを知ることができた。癌もまたよかご縁だった。」としみじみと話していたことを思い出します。

自分の人生を振り返ったときに良いご縁も悪いご縁もすべてのご縁が自分の人生を深めてくれる尊いご縁であったといいきれる自分自身に作りかえられていく。これがお念仏を通していただいていけるのではないかと思うことです。

阿弥陀さまの智慧の光に照らされ、お慈悲のぬくもりの中に生き、そしてひかりといのちきわみなきお浄土へ生まれ往かれた父との様々な思い出を13回忌の節目の年にしみじみと振り返ることです。