親鸞聖人はいったいどのようなことを明らかにされたのでしょうか。それは、人によっていろいろな見方があるかもしれませんが、端的には二つの事柄をあきらかにされたのだと考えることができます。一つめは「仏教の究極とは何か」ということです。それは悟りそのものの真理で、言い換えると阿弥陀仏の大いなる智慧と慈悲のすべてを明らかにされました。二つめは、人間は悟りとは全く逆の迷いの存在(凡夫)ですが、その迷いとは何かということを明らかにされました。つまり、仏の真理と凡夫の真理を明らかにされたのだと言えます。

ところで、実はこの二つの真理を私たちは、その通りに知ることがなかなかできません。そこで、親鸞聖人は、その迷っている姿の真相を明らかにしてくださっているのですが、私たちは自らが迷っているということに、容易に気づくことができないのです。親鸞聖人の教えが難しいとか、よく分からないという人は、このことが原因だと思われます。

けれども、親鸞聖人の教えにはひとつの明確な原理があり、そしてそれはきわめて簡明なものです。その教の構造というのは、「仏が迷っている私を救う」ということです。この「私が仏によって救われる」という原理が、まさに浄土真宗の教えのすべてだと言えます。

とはいえ、迷いのただ中にある私に、はたして仏の心が分かるのでしょうか。また、仏が私を救ってくれているという、そのことがどのようにして分かるのでしょうか。この点が「難中の難」と言われているように一番難しいことなのです。

親鸞聖人の主著『教行信証』「行巻」の中で、阿弥陀仏の救いの論理が明らかにされていますが、その仏のはたらきについて理解することは、実はそれほど難しくはありません。また、その一方、凡夫の迷いの姿や心の痛みも説かれているのですが、それも理解することはとても容易です。

では、いったい何がきわめてむずかしいのかというと、この阿弥陀仏大悲に、迷っている私がどのようにして出遇うかということが、非常に理解し難いのです。そこで、親鸞聖人はこの一点を何とかして私たちに分からせようとしておられるのです。

ところで、実は「真理」というものは、誰にでもわかるものです。もしある真理が明らかになっているにもかかわらず、その真理が分からないのだとすると、それは理解し得ない私の側に問題があるのです。なぜなら、私の方が真理の見方を見誤っているからです。そうなると、その真理が分からないのは、むしろ当然のことだといえます。

そうすると「親鸞聖人の教えが難しい」と思ってしまうのは、私が真理を求める心を持っていないからだといえます。そして、そのことをなかなか自覚し得ないために親鸞聖人の教えをなかなか理解することができなかったりするのかもしれません。