「一年の計」

昨年亡くなった父が、「落語の真打と呼ばれる人たちは、いつでも数十席の噺ができるように、常に鍛練しているらしい。自分たち僧侶も、いつでもきちんとしたご法話ができるように、日頃から研鑽を積む必要があると思う」という話をしみじみと語ってくれたことがありました。その時は、「そんなものかな…」という程度だったのですが、最近、父が何を言いたかったのか、だんだんと分かってきました。

私が住職を務めている寺院では、毎朝午前9時から中陰法要(初七日~七七日)、月命日、祥月命日などの法事でお参りに来られる御門徒の方に、読経の後に20~30分ほどのご法話をしています。以前は、午前8時半・9時・9時半の3回お勤めしていたのですが、その時は読経の後に「御文章」を読むと、また次のお勤めの方のお供えと入れ換えをしなければならないので、ほとんどご法話をする時間がありませんでした。

けれども、それでは特に葬儀の後、七日ごとの中陰法要のお参りに来られる方に対して、せっかく仏縁を深めていただくよい機会なのに、読経のみでは大変申し訳ないということで、設定を午前9時からの1回のみにして、その代わり読経から法話まで50分~60分程かけてお勤めするようにしました。

なお、この午前9時からは合同でのお勤めになるため、満中陰や年回法要を自分の家族・親族だけで勤めたいと希望される御門徒の方には、「特別法要」という名称で、事前にお申し込み頂いて午前10時以降にお勤めするようにしています。

そして、父と私が役割を分担し、午前9時からの合同でのお勤めは父が、午前10時以降の特別法要や通夜・葬儀・還骨法要、ご自宅でのご法事は私が勤めるようにしました。父が担当する午前9時からの合同でのお勤めは、第二日曜日を除いて毎日あるのですが、私が担当する特別法要・葬儀等は毎日あるわけではありません。ただし、だからといって何もしていないのではなく、保育園(現在は認定こども園)の仕事をはじめ、いろいろな業務をこなしていました。

父は、毎月病院に定期検診に行っていたので、そのような時は合同のお勤めを私がしていたのですが、その都度思っていたのは、「自分は単発で法話をしているが、父は中陰法要で毎週来られる方がいらっしゃるので、毎週違う話をしているらしい。将来、自分が父の立場になった時に、それがちゃんとできるだろうか…」ということです。

父が亡くなる約一年前のことです。94歳だった父から「そろそろお勤めをするのがきつくなってきた。代わってもらえないだろうか」と言われました。「ついに、来るべきときがきたな」と思いながら、父を真似て一週間ごとに法話の内容を変えながらお勤めするようになったのですが、30分ほどの法話といっても文字にするけっこうな量になります。

もし文字だけを30分間読み続けるとしたら、人に聞かせるとき心地よいペースは1分間に400字程だそうですから、単純計算では400字×30枚=12000字になります。けれども、時折板書したり、ゆっくりとした口調でないと理解していただけなかったりするので、だいたい原稿用紙25枚、10000字くらいでしょうか。

そうすると、毎週違う法話をするためには、1か月4週として原稿用紙100枚分。中陰法要の方は7週来られるので、1回余分にみても、8回分つまり200枚分の法話原稿が必須になります。

現在、毎週内容を変えながら、だいたい3か月ごとにローテーションをしています。新たな法話のレパートリーを増やそうと考えてはいるのですが、いろんなことに追われていることもあり、なかなか増やせずにいます。毎月「心のともしびカレンダー」の法話原稿を書いているので、それを法話に繋げたいとは思うのですが、法話には10000字ほどの内容が必要になるので、法話原稿だけでは足りません。

「プレバト」というテレビ番組の俳句コーナーで、番組内で永世名人になった梅沢富美男さんが、個人の『句集』を作るための俳句を詠んでおられます。その『句集』への掲載の可否を判定される夏井先生から、梅沢名人はしばしば詠んだ句に対して「ボツ」の判断をくだされ、なかなか句集に必要な数に到達することかできないでいるのですが、それを見ながら共感することしきりです。それは、なかなか御門徒の方の前でお話することのできる質・内容の法話原稿を書けずにいる自分の姿と重なってしまうからです。

「一年の計は元旦にあり」と言いますが、一年の始まりに当たり、今年はかつて父が語った落語家の真打さんのように、さっとお話できる質・内容の法話を20、30と増やしていけるように…。梅沢名人は50句を目標にしていますが、私も最終的には「50」を目標に、研鑽を積んでいきたいと思うことです。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。