タレント 西川ヘレン さん
そして自分の部屋に入っていくんですが、いつもなら勢いよくガラッと開けるのに、この時ばかりはなんとも静かにそそっと入りました。
「おじいさん、おじいさん」と、私も嫁に来てから聞いたことのないような声で、おじいさんを揺り起こしました。
おじいちゃんにしてみれば、昔聞いた声やけど、誰の声やったやろうかいな思って目覚めたら、しわだらけのおばあちゃんが、おじいちゃんを覗き込んでます。
それで「あんた私のこと好きかいね」とおばあちゃんが聞きました。
揺すられて起きたままのおじいちゃんは、どう答えたらいいのかわからしませんから、「好きでも嫌いでもないわ、どあほ」というえらい答え方をしました。
それでも、それから何日かたっておじいちゃんとおばあちやんの様子を見ていると、「おいおばあ、苦そばばあ」という声は聞こえなくなりました。
「おばあちゃん、おばあさん」と呼んでおられます。
すると、おばあちゃんも「なんですか、おじいさん」と答えます。
孫に教わることってあるんですね。
つくづくそう思いました。
そして、おじいちゃんもおばあちゃんも元気な頃のことですが、みんなでお出かけするとき、私と主人はいつでも手をつないで歩くんです。
それを見て「あれも真似せなあかん」と思ったんでしょうね。
後ろから歩いたんでは私たちにわからない。
「前に回って歩いてやれっ」てなもんです。
それで二人はぎっちり手をつないで歩き始めました。
せやけど、私たちの歩幅よりおばあちゃんたちの歩幅は狭いですから、早足みたいに歩いてはるんです。
そのうえ、お互いが力入れ過ぎてるみたいで、まっすぐ進めていませんでした。
でも、その姿を見て主人が言いました。
「良かった、親父とお袋があんなふうに手をつないで歩くのなんて、僕はこれまで見たこともなかった。
でも娘のお蔭で、あんな姿を見れるということは有り難いことや。
よかったなヘレン」「そやなパパ、よかったな。
私らも仲良うしような」と言って、手をつないで歩いてました。
すると、横で歩いてた私の母が言いました。
「そらよろしおすわな、相手がある人は。
私は手をつなぎたくても、つなぐ人があらしませんのやもん」。
これにはもう「そうや、その通りや」と思いました。
「これはいかん」と思って、私たちがさっと横に行こうとしたら、息子二人がふっとおばあちゃんの側へ行って、「向こうは年寄りやけど、こっちは若いで。
両手に花やで」と手をつなぐと、母も「そうどすな、向こうは年寄りやけど、わては両手に花やわ」と歩き始めました。
家族っていいな。
親子っていいな。
生きてるってすばらしいなと感じるその日その日が、今日までありました。
いつお約束が来て、みんなとお別れする日があってもそれまでは本当に、日々しっかりと地に足をつけて生きていくことやな。
そう今は感じております。