「ホスピスの現場から」

〜地球・いのちへの視座〜(中旬)

現実であるものをきちんと見る

 病気などで患者さんに本当のことを伝える告知というのがありますね。

外国語では告知とは事実を告げるという意味なんです。

本当のこと、例えば余命あと何年と言われたときと、あと数カ月と言われたときとでは、残された馬韓の意味と重みが全然違います。

やはり本当のことを言わず、対話の中に嘘が介在する患者さん、ご家族、そして我々医療者の中で本当の信頼関係は築けません。

 そういうこともあって、内容としては辛いことですが、本当のことを言って、残された時間を患者さんが自身どのように使いたいかということをみんなで聞いて、それを支えてあげるということが望ましい形なんだと思います。

ホスピスケアでも、患者さんが知りたい程度にお伝えします。

 病状について、患者さんが詳しく知りたければ詳しく伝えますし、おおざっぱでよければそのように伝えます。

また、悪い情報は知りたくないという方には、あえて伝えないようにしています。

本当のことを知っていただくと、納得して医療を受けることが出来ます。

それから患者さん自身の自己決定権を尊重出来ます。

自分の身体について本当のことがわからないと自分で決めることは出来ません。

 そして、いろんな問題があればそれを解決したり、仕事とか財産などの問題を整理して、残された時間を有意義に過ごすことも出来ます。

そうはいっても、すべてがすべて良い面だけではありません。

知ることによって患者さんがショックを受けて、立ち直らないということもあり得ますので、すべて伝える必要はない訳です。

 ここで、ホスピスの事例を紹介したします。

最初は、五十代のある女性の方です。

この方は乳ガンの骨への転移で当院へ来られました。

抗ガン剤などを拒否してホルモン剤を飲んでいましたが、腰が痛くなって歩けなくなりました。

焼け火箸を背中に押しつけられたような強い痛みを訴えられて、とても歩くことは出来ず、ずっとベッドに横になっていました。

 そんな状態でしたが、一週間の間に痛み止めを使うことで歩けるようになったんです。

この方は生け花がお好きで、亡くなる一週間前まで自分でお花を生けていました。

最初見たときは、余命三カ月かなと思いましたが、六カ月ほどもって、そうして最期は眠るように、穏やかに亡くなっていかれました。

 それから、小説家の白石一郎さんという方がおられました。

この方は

「病気にかからないことを目的化したり、戦々恐々と暮らすことだけはしたくない。

今は陰も陽も醜いものも、現実であるものはきちんと見ないといけないと思うようになった」

と言っておられます。

 また、スイスのポール・トゥルニエという方は、

「生きる目的は苦しみを無くすことではない。苦しみを実りあるものにすることである」

と言われました。

苦しみというのは、この世の中から消えることはないですよね。

その苦しみを実りあるものに転ずるということが大事だと思うのです。