「ホスピスの現場から」

======ご講師紹介======

斉藤 裕さん(相良病院副院長・ホスピス長)

☆ 演題 「ホスピスの現場から〜地球・いのちへの視座」

昭和25年、島根県に生まれる。

鳥取大学医学部卒業。

昭和58年から鹿児島県国保甑島中央診療所に勤務。

平成元年から今給黎総合病院で総合内科部長を務め、平成10年に現在の博愛会相良病院に移籍。

翌年の7月に同病院の副院長に就任。

平成14年からはホスピス長も兼任、現在に至る。

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〜地球・いのちへの視座〜(上旬)

ホスピスの現場では量より質を重視

 ホスピス緩和ケアとは、具体的にどういうことをするかと言いますと、まず生きることを尊重します。

誰にでも、例外なく死は訪れるものですが、それは急にやってくるものばかりではありません。

いろんなことが出来なくなっていく死の過程に敬意を払うということです。

そして、死を早めることもしませんし、遅らせることも意図しません。

意図しないというのは目的ではないということ。

痛みやその他いろんな不快な症状を緩和するということです。

それから、精神的、社会的な苦痛などそういったものへの援助を行い、患者さんに死が訪れるまで、生きていることに意味を見出せるようなケア、スピリチュアルケアをします。

しかし、このスピリチュアルケアというのはなかなか難しく、答えが出しにくいのです。

つまり患者さんから、なぜ自分が末期のガンになったのかということを聞かれても、答えがすぐには出ない訳です。

そういう時にはまず、患者さんの心に焦点を当てるといいますか、患者さんの訴えを聞いてあげる、傾聴することが大事なのです。

それから、家族がいろんな問題や困難を抱えて、対処しようとするとき、患者さんの療養中から死別した後まで家族を支えます。

つまり、ホスピス緩和ケアというのは患者さんだけではなくて、そのご家族も対象になるということなんです。

病気で亡くなっていくのは、時代によって変わってきました。

昔は結核、脳卒中、脳血管障害、心筋梗塞、心臓病が多かったのですが、1980年代の始め頃から悪性新生物、すなわちガンで亡くなるという時代です。

ということは、ガンはそう珍しい病気ではなくなったということです。

もちろんガンになったら必ず亡くなる訳ではないんですけど、そのくらいこの病気は増えているということです。

ガンになったらどういう症状が出るかといいますと、一番多いのは身体がだるくなる全身倦怠感。

食欲不信、そして痛み。

これがワーストスリーです。

そのほか便秘、呼吸困難になることもあります。

緩和ケアというのは、ガンそのものを治すことは出来ませんが、症状を少しでも和らげ、苦痛がないようにしようという医療なのです。

ガンの痛みに関しては、8割〜9割が取れるといわれていますので、ガンになっても最期まで苦しむことはほとんどないと思っていいでしょう。

病気、例えばガンが進んでも、もう治らないという診断をされたとき、人間は誰でも精神的なショックを受けます。

 ただ、桜島もそうであるように、いつも爆発している訳ではありません。

少しずつその揺れが小さくなっていきます。

ホスピス緩和ケアというのはそういう苦痛を和らげ、日常生活を支えます。

患者さんは、体力を失っていろんなことが出来なくなってきますから、そこで日常生活の世話をします。

そして治らないということは、最終的には死の看取りをしないといけないということです。

私たちは、主にこの三つをしていきます。

 そしてホスピスの現場では量よりも質を重視します。

量というのは時間の長さです。

残された時間を延ばすことよりも、仮に残された時間が短くても、生活、生きがいの質を少しでも高めることに力を注いでいます。