自分のことは、知っているようでなかなか自身では見えないもの

警視庁のまとめによれば、2014年に東京都で落し物として届けられた現金が約33億4000万円に上り、そのうち約74%の24億7000万円が持ち主に戻ったそうです。

東京は、世界の政治・経済ニュースをリードするイギリスのエコノミスト誌で「世界一安全な都市」に選ばれているのですが、今回のこの調査結果は、都民のモラルの高さも強く印象付けるものになりました。

これは、2020年に東京オリンピック開催が予定されていますが、世界の各地の人びとの来日への背中を押す要因の一つになると思われます。

また、イギリスの有力紙ガーディアンは、日本人の正直さを物語る例として、

「日本の法律では、落とし物の持ち主が3カ月間現れない場合、落とし物は届け主のものになる。しかし、驚くべきことに、届け主がその権利を放棄したため、3億9000万円が東京都の財源になった」

と伝えています。

この他、世界三大通信社の一つフランスのAFP通信は、2000万円近い現金が入ったバッグを届けた清廉潔白な人もいたことを伝えています。

なぜ、これらのことが「驚くべきこと」としてイギリスやフランスなどで記事になるかというと、海外では日本とは対照的に落とし物が戻ってくる確率が低いからに他なりません。

イギリスの一般紙テレグラフによると、アメリンのコンピューター・サービス会社Mozyが、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・アイルランドの5カ国を対象に、落とし物に関する調査を行ったところ、一人当たり毎年1.24件の落とし物をする一方、持ち主に返ってくるのは半分程だったそうです。

なお、落とし物の平均金額は、114.46ポンド(約21,000円)で、調査対象5カ国の年間合計損失額は3050万ポンド(約56億円)でした。

日本人の正直さは訪日外国人の間でも高く評価されていて、ガーディアン誌の読者コメント欄には、実際に日本で失くしたものが戻ってきたという経験談が多く寄せられました。

例えば、雪山で落した携帯がお土産付きで無料郵送されたとか、タクシーの後部座席に忘れた航空券・パスポート・現金・トラベラーズチェック・クレジットカードなどが全て戻ってきた等々です。

このような日本人の正直さを読んで、「日本に行ってみたくなった」という意見も多数寄せられたそうです。

その一方、

「日本は何でも拾ったものは交番に届けるという社会的圧力が大きいだけで、他の国の人よりも正直であるわけではない」

というコメントもあったのですが、それには

「財布や現金が無傷で戻ってくるなら素晴らしい事だ、社会における良いマナーは他の国にも必要だ」

「日本に何年も住んでいるけど、そんな社会的圧力を感じたことはない」

といった反論が寄せられました。

さらに

「アメリカで生まれ育ったが、日本に住んで7年になる。日本人の正直さは、日本が大好きで住みたい理由の一つだ」

「正直さが基本とされている社会では、大多数の人が正直に行動する。驚きだ」

「日本人はずば抜けて礼儀正しい。地球に残された最後の文明社会という気がする」

というコメントも寄せられました。

「地球に残された最後の文明社会」というのは、少し大げさな気もしますが、相当に高い評価を受けているようです。

最近、よく「外国の人から見た日本」について紹介するテレビ番組が増えてきました。

外国の人たちから見た日本への評価を見たり聞いたりすることを通じて、改めて日本の習慣・文化などを再認識することが多いのですが、まさに「灯台下暗し」といった感じです。

日本人だからといって、日本ついて知っているようで、実はよく知っていないことの多さに驚くばかりです。

また、私たちが日頃当たり前と思っていることが、外国の人から見ると「驚き」であったりすることもしばしばあります。

その一つが先に紹介した「落とし物」についてのことですが、この他にもいろいろな点で私たち日本人は他の国の人びとから高い評価を受けています。

それら改めて認識することで、「良い」と評価される点については、期待を裏切ることのないよう、これからも大切にしていきたいと思うことです。

自分のことは、知っているようでなかなか自身では見えないものです。

「他人の悪口は嘘でも面白く、自分の悪口は本当でも腹が立つ」という言葉があります。

外国の人からの嬉しい評価だけに耳を傾けることだけで満足するのではなく、それ以上に反省すべきこと、改めるべきことにも謙虚に耳を傾けるように努めたいものです。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。