ご講師:伊藤えりさん(笙演奏家・作曲家)
「雅楽」というと、多くの方が神社でお正月に流れている音楽とか、神前結婚式のときに演奏されるものなどと言われ、一般的に神道の音楽というイメージが強いようです。
神仏混淆(しんぶつこんこう)とか本地垂迹(ほんじすいじゃく)という文言をご存知かと思いますが、日本の文化というのは非常におおらかで、仏教と神道が混じりあっていて分けきれず、このように曖昧に認識されているのかもしれません。
しかし、雅楽は仏教と一緒に日本に入ってきた外来の音楽です。
仏教なしで雅楽のことは考えられませんし、雅楽がないと仏教の法要は成り立ちません。
雅楽は、日本の伝統芸能の中で最古のもので、1400年以上の歴史があります。
能、歌舞伎などは雅楽よりずっとあとの時代になって生まれた芸能です。
中国大陸と朝鮮半島から仏教と雅楽が日本に入ってきたのが西暦600年から700年頃ですが、そのころ、大陸では唐の国が栄えていました。
唐は、シルクロードを通じでアジア圏のいろいろな文化を吸収しつつ、独自の文化を育み仏教も広まっていきました。
日本では先進文化の進取を目的として、当時の皇室や政治家たちが懸命に仏教や雅楽を取り入れました。
外来音楽を学ぶことを最初に推奨したのは聖徳太子(しょうとくたいし)で、奈良に教習所をつくりました。
皇室との密接な関わりもこのころから続いています。
それ以来、仏教の法要や神道の祭祀では雅楽が演奏されるようになりました。
仏教美術も発達し、仏像や仏教絵画に優れた作品が続出しました。
そこには雅楽の楽器を持った菩薩さまや天人・天女が描かれており、雅楽と仏教美術との関わりの深さを知ることができます。
古い記録を見ると当時の雅楽が大規模で華やかであった様子がうかがえます。
今日、雅楽の中で耳にするのが一番多いジャンルは「唐楽(とうがく)」だと思います。
有名な「越殿楽(えてんらく)」も唐楽に属する楽曲です。
もうひとつ「高麗楽(こまがく)」というものがあります。
主に舞楽で使われる音楽で、朝鮮半島経由で入ってきたものです。
それとは別に、宮中祭祀の中で演じられる「国風歌舞う(くにぶりのうたまい)」「御神楽(みかぐら)」というジャンルがあります。
一番格式が高いもので、日本的な音楽をそのまま生かしたジャンルです。