「仏教を通して、-他力と自力、アメリカとの比較から-」(後期)無財の七施、和顔愛語

日本の社会は温かく思いやりがある、アメリカのように厳しくないというのが一般論ですが、日本人の最大の悩みは人間関係です。

職場、家庭、ご近所、PTA、老人会など、いろいろなところでの人間関係に悩み苦しんでいます。

なぜでしょうか。

私は、期待水準が高すぎるからではないかと思います。

人は完全ではない、善人ではない、嫌なところもある、それでもよいと考えれば、相手から裏切られたとか愛情に応えてくれないと考えなくてすむのです。

大人になると多くの経験を重ねて、人間関係の人と人との間の距離を考慮するようになります。

車間距離と同じように人間にも適正な距離を置くことが必要ですし、身近な人に対しても言いたい放題にするのではなく「親しき中にも礼儀あり」ではなくて「親しき仲こそ礼儀あり」を心がけるようにしたいものです。

もう一つみなさんにおすすめしたいのは「あの人と心が通じてとてもよかった。あの人が本当にこちらが考えてもいなかった親切なことをしてくれた」などのように恩を受けたと感じたことをときどき思い出すことです。

私は「女性の品格」という本の中で、形を整えることの大事さを書いているのですが、心の持ち方として一番言いたかったのは他人の良いところを見つける能力を養うこと、そのために努力すること。

自らを励まして他人の良いところを見つける努力を続けるのはとても大事です。

そして、人に与える、人を愛する。

愛は貰うよりも与える、そういう力を持つことが大事であると思います。

「与える」というとお金を寄付する、物をあげるというふうに考えがちですが、宗教の言葉で「布教(ふきょう)」という言葉があります。

「布」はあまねくという意味です。

布は広いからでしょう。

あまねく教えるのが布教で、あまねく施すのが「お布施」です。

お布施というとお金を包むことと考えがちですが、お金だけでなく「無財の七施」というものがあります。

無財の人でも七つの施しができるという教えです。

例えば「眼施(げんぜ)」やさしい眼で見守るとか、「言辞施(ごんじせ)」思いやりのある言葉や「床座施(しょうざせ)」席をゆずるなど、お金で施すのではなくて、自分の態度や心持ちで相手に与えるものを私たちは持っています。

人間関係を良くするためには相手のことを思って、気持ちよく穏やかに上機嫌で接し、相手のためになる言葉をかけるのです。

和顔愛語で接すれば、必ず良い人間関係を築くことができます。

・今を大切に生きる

基本は、自分が今ここに生きている、命を与えられている、この命を大事にして生きていくということです。

明日は今日より歳をとります。

今この時が人生の中で一番若い日なのだと思って行動することが肝要です。

今の自分に与えられた時間を大事にする、今しかできないことをする。

進歩や努力というものを他人と比べても無意味です。

自分の過去と比べ、自分の未来というのは、その時に自分がどれだけ何をしたかということの積み重ねです。

今自分ががんばったことが未来の自分を作るのだと意識して行動することが大切です。

今を大事に過ごすことが重要なのです。

他力の国日本、自力の国アメリカ、その他にも広い世界にはさまざまな考え方やルールや行動様式等があります。

完全な社会やユートピアはどこにもありません。

私たちが何を目指して、何をするかであり、その積み重ねが将来を形成します。

あと何年生きるかはわからずとも、今やるべきことは今やるということを常に心掛けたいものです。

今やるべき事は今しかできないのです。