「自然界に学ぶ」〜世界は人生の教科書〜(下旬)学習することで、薬までも使うことができる

私がタンザニア西部のマハレ国立公園という所でチンパンジーの研究をしていたときです。

ペルノニア苦くて食べられない植物を、チンパンジーが食べるという噂を耳にしました。

それを聞いた時は、なぜあんな苦い植物を食べるのか理解できませんでしたが、ある日その現場を目撃します。

チャウシクというチンパンジーが、ベルノニアの苦い部分をかんで、中の汁だけを飲んだんです。

それ見て私も挑戦しましたが、一日中口の中に苦さが残って、本当に後悔しました。

彼らは普段、人間でも食べるフルーツのような甘酸っぱいものを主に食べるので、ベルノニアみたいに苦いものを食べるなんて説明がつきませんでした。

ところが、現地で活動されている研究者の方に尋ねると、現地住民はベルノニアを腹痛やマラリアによる高熱の薬として日常的に使っていることがわかったんです。

ところが、チンパンジーが食べる理由は分からないとのことだったので、24時間体制でチャウシクを追いかけました。

あるとき、チャウシクがひどく弱っているときがありました。

一歩二歩進むだけで座り込み、食欲もなく、その日は苦いベルノニアしか食べませんでした。

夜はヒョウが出て危険なのですが、子どもを見る元気もないので遊び放題。

私も夜は危険なのでいったん宿に戻りました。

翌日、チャウシクを見に行くと、いびきをかきながら寝ていました。

すると突然立ち上がり、走り出したんです。

あれほど疲れていたのに、オリンピック選手のように走り回り、食欲も戻っていました。

これはベルノニアを薬草として利用しているに違いないということで、また研究が始まったんです。

このことは薬草研究に非常に役立ちました。

このように、人は動物を見て、いろんなものを得ています。

近代の社会には、全ては実験室や工場で答えを得ていると思い込んでいる人が多いと思います。

しかし、私は研究者として多くの動物に会い、サルたちと接することでいろいろなことを教わりました。

大切なことを教えてくれる大自然は、人生の大事な教科書です。