私が学生時代に世話をした京都・嵐山のサルに久しぶりに会うと、トタンの屋根からすごい音が響いてきました。
何の音なのかわからなくて見てみると、サルたちが石を持ってコツコツと何かしているんです。
それは石遊びをしているところでした。
ずいぶん昔に、あるサルが始めた行動をまねして、この文化が群れの中に広がっているんですね。
遊び方もそれぞれです。
石をただ抱くものがいたり、いくつも集めて自分の前に置くものがいたり、いくつも集めて自分の前に置くものがいたり、麻雀を始めるときみたいに、バラバラにしているものなど、自分の世界に入り込んで、一生懸命石遊びをしていました。
これがとても面白くて、どうしてこんな行動をするのか研究してみたくなり、この石遊びが私の研究テーマになりました。
まずサルの家族図を作って、石遊びをしているサルとしていないサルに分類しました。
すると、石遊びを始めた家系だけがしていることが分かったんです。
それがどんどん群れの中に広がっているんですね。
ニホンザルは5歳になれば立派な大人です。
この年になると、サルも群れの中での地位を気にするようになって、新しい遊びを修得かるようなことはありません。
群れに広まる理由は、赤ちゃんが石遊びを修得するからなんです。
サルの赤ちゃんは、生後半年ほどで石遊びを始めます。
そこで、サルの赤ちゃんは誰から石遊びを学ぶのか、調査しました。
石遊びをするお母さんのそばで赤ちゃんがそれを見ると、近づいてその石を触り始めます。
生まれて、2・3週間もすれば家族のしていることをしてみたい、大人になりたいという気持ちでどんどん学習していきます。
そして、そばにいた仲間のサルも同じようにまねをして、石遊びをするようになります。
そうやって、群れの中に石遊びが広まっていくのです。
なぜ石遊びをするかは、いくつか説を作りましたが、おそらくリラックスするためにしているのではないかと思います。
集中して周りのことを忘れ、音と感覚を楽しんでいるのです。
サルも人間と同じように年をとりますが、石遊びは指先を使うので、とても脳を刺激します。
ですから、サルはこの石遊びをすることで、楽しみながら老化を防いでいるのかもしれません。
サルも人間と同じで、生後間もない頃は家族と一緒に生活をします。
目も見えないような年齢でも、音でしっかり石遊びを感じているのでしょうね。
すぐに石遊びを覚えます。
幼い頃からお母さんのすることにとても興味を持つんです。
こういうところでも、親子の絆が見られます。
いつごろ石遊びを習得するかも調査すると、お母さんが石遊びを多くするほど、それだけ早く石遊び習得することが分かりました。
人間で言えば、お母さんが勉強に熱心で、小さい頃から子どもを塾に行かせるのと同じです。
また、兄弟がいるかいないかにも大きく関係があることが分かりました。
一人っ子だと、お母さんが子どもを大切にしすぎて離さないんです。
サルもお母さんが下の兄弟を育てるのを見て子育てを学び、育っていきます。
同年代の仲間がいることも大切なんですね。
石遊びは、学習することによって習得する文化です。
サルにとっても学習がいかに重要かが分かります。
そして、生活をしていく上で、必要最低限のことだけではなく、石遊びという遊びまで覚えて、人生を豊かに送っていくのです。