======ご講師紹介======
ハフマン・A・マイケルさん(京都大学霊長類研究所准教授)
☆演題「自然界に学ぶ〜世界は人生の教科書」
次回の講師は、京都大学霊長類研究所准教ハフマン・A・マイケルさんです。
幼い頃からサルが大好きで、大きくなったらアフリカの森でチンパンジーと一緒に住む夢を持っておられました。
昭和54年に初来日され、関西外国語大学などで日本語や日本の文化について学ばれました。
コロラド州フォートルイス大学を卒業後、昭和55年に文部省国費留学生として再び来日され、平成元年に京都大学理学博士を取得。
平成13年から京都大学霊長類研究所准教授として、研究所の大学院生の教育・研究育成に従事。
日本をはじめ世界各地のサルの行動生態学についての研究をしておられます。
==================
京都大学霊長類研所の先輩で、私の恩師でもある今西錦司先生が、動物に文化があるということを最初に提唱しました。
1952年当時、ニホンザルのデータはほとんどなく、文化があるなんて考えた人はいなかったので、大変注目を集めました。
今西先生は周りにいた学生を集め、サルの文化、人間の絆、社会の起源を知ることを目的に、サルの研究を全国へ展開していきました。
九州では宮崎県の幸島(こうじま)と、大分県別府市の高崎山に野猿公園と研究施設を作り、現在も研究が続けられています。
先生を中心に、学生たちが全国各地を飛び回り、集団生活の違いを調査しました。
食べ物の違い、子守の違い、あいさつの違いなどから文化が存在しているかどうかを調べるという、世界で初めての試みがされたのです。
サルにも文化があるということは、幸島に住むサルたちの芋洗い行動から徐々に解明されていきました。
なぜ芋洗いをするようになったかは諸説ありますが、おおむねこういう理由でしょう。
おそらく、農家からサツマイモをもらってきて食べようとすると、泥や砂がついていて食べにくい。
すると、これらを落とせば食べやすくなるということになります。
ところが、自然界では水を使って洗ったりするということはまずありません。
芋洗いが始まったのは、必要性があったというよりも、ある好奇心旺盛なメスがやりだした行動によると考えられます。
きっとそのメスは、芋をこっそり食べようとしたところ、誤って水に落としてしまったんでしょう。
するとどうやらその水で泥や砂が落ちて食べやすくなった。
そういう風にして、気付いたのかもしれません。
そして、その行動が自分のお母さんや親戚にまで広まって、いつの間にか群れのみんなが芋を洗うようになっていったという訳です。
それも初めは、川で芋を洗っていたんですが、海で洗った方が塩味がついておいしいことに気付き、どんどんグルメになっていったんです。
芋を洗って、塩味をつけて食べるという行動は、なんとも文化的だなぁと感じます。
50年間もこの行動が続いており、現在も世代を超えてこの文化が幸島に残っています。
これらの行動は、ある群れの1匹が画期的な発見をすると、近くにいた仲間がそれを見て、その行動をまねします。
それは、学習効果があって、人間の子どもと同じように、他の子どもがやっている遊びにすごく興味を示すのと同じことなんですね。
例えば、あるメスがこども産むと、その子どもはお母さんの行動を見てまねをします。
その子が大人になって子ども産むと、その子どもはまたお母さんの行動をまねします。
これが繰り返されて伝統となり、群れ中にも広がっていきます。
その例が先ほどの芋洗いです。
サルには芋を洗って塩味で食べるという本能はありません。
群れ全体が新しい行動を身につけて、それが世代を超えて伝わって行くということは、やはり人間と同じく文化なんです。
学習によって、親から子どもへと伝わっていくことが非常に多い。
このことから、サルには文化があるんだということが分かっていただけると思います。
サルは、覚えたらみんなが得をするという行動を、生きていく上で必要に応じて身につけていく集団だと言えるでしょう。