「うたのちから」−幸せになるために人は生れてきた−(下旬)歌、それは人間のいのち

東日本大震災が起こった平成23年3月11日、私は『うたのちから』という歌を作りました。

地震が起きた14時46分。

私は新宿の事務所から埼玉の実家に帰る途中、高架線を走る電車の中にいました。

そこで尋常ではない突然の揺れに襲われ、電車が止まりました。

車掌の指示でみんな電車から降り、そこから駅まで線路沿いに歩いて行きました。

やっと駅にたどり着いても、交通機関は半ばマヒしていたので、駅前のファストフード店に入りました。

そこで空いていた席に座って5時間、私は自問自答を繰り返しました。

歌って何だろう。

自分は何で生きてきたんだろう。

歌に何ができるんだろう。

いや、誰かが待っていてくれる。

だから自分はここまで歌ってきたんだ。

そんなことを考えていると、いろんな人を思い出しました。

同時に、誰かが自分のことも思ってくれているはずだ。

それだけで生きられる。

心が温かくなる。

やっと答えらしいものが見つかり始め、それを箇条書きにしました。

自分も誰かの役に立ちたいと思いました。

それだけできっと未来は輝き出すのだと信じたかったのです。

そんな歌になりたいと思いました。

災害時の避難生活では、年寄りは足手まといになります。

親類縁者・友人を頼りに転々とする避難生活を送る中で、体力的な理由などで離ればなれになったある家族がありました。

その後、やっと家族が再会し、久しぶりの楽しい食事をして家族一緒の喜びを分かち合いました。

しかし、その矢先

「さよなら。私はお墓に避難します」

そんな遺書を残して、93歳のおばあちゃんが夜中に自らいのちを絶ちました。

こんな悲しいことがあってはなりません。

そんなことを考えていくうちに、マハトマ・ガンジーの言葉を思い出しました。

ガンジーの教え通り世の中が動いていたら、戦争も差別もない世の中になったはずです。

ガンジーの言葉に

「7つの社会的大罪」

というのがあります。

その中の4つを紹介します。

1つ目が「人間性なき科学」

それが人間のいのちを危険なさらしています。

2つ目が「道徳なき職業」

道徳をかなぐり捨てた商売が人間の暮らしを破壊し続けています。

3つ目が「理念なき政治」

どんな公約を掲げてもさっと変えてしまう。

そんな理念のない政治が子どもたちの未来を脅かしています。

4つ目が「労働なき富」

働きもしない人たちが投機マネーで世界の経済を混乱に陥らせています。

そして貧富の差は広がるばかりです。

この世の中の苦しみの根源は、貧困と無知です。

今こそガンジーの言葉を思い起こし、失望を希望に、絶望を展望に変えたいと思います。

いわき市の小学校で開いたコンサートの最後に、6年生の女の子が言った言葉を思い出します。

目をきらきらと輝かせて私の顔をしっかりと見ながら言った

「司平さん、ご安心下さい。私は、家は壊れても、心は壊れていませんから」

というその子の言葉を、私は生涯忘れません。

歌、それは人間のいのち。

歌、それは響き合う心。

歌、それは歴史の足音。

歌、それは生きていく力。