松虫と、鈴虫――
ことばは慄(ふる)えがちだし、胸にいっぱいな今の気持も、充分にいいあらわせないのであったが、ふたりは、こもごもに、御所を逃げてきたわけを話し出した。
その動機と。
また、半年あまりの苦しい迷いだの悩みだのを。
そして、自分たちの、虚偽な生活を、住蓮と安楽房の前に、残りなく懺悔(ざんげ)して、
「どうぞ、この草庵に置いて、私たちを御弟子(みでし)にしてくださいませ」
いい終わると、ふたりとも、そこへ艶(あで)やかな黒髪を投げ伏して、さめざめと泣くばかりだった。
「…………」
住蓮も安楽房も、それを聞いて茫然としていた。
御所の女性(にょしょう)――しかも上皇の寵妃(ちょうひ)である局(つぼね)が、人目をしのんで、この山庵へ来たということだけでも、重大な問題だ、事件である。
(こんなことなら、上へあげるでなかったに――)という悔いの色は、住蓮にも安楽房の顔にも、同じようにうごいていたが、彼女たちの命がけな熱意を聞いてみると、
(さもあろう)と、同情の念がうごき、やがては、ふたりの泣き入るすがたに、
(これほどまでに、自己の生活の非を悔いて、真実の生命に甦(よみが)えろうとしている者を、どうして、すげなく振り捨てられよう)と、共々、涙がにじんでしまうのであった。
しかし――おそろしいことだ、とも思うのであった。
眼前の事実に戦慄をせずにいられなかった。
もし、ふたりの乞いを容(い)れて、このまま草庵に匿(かく)しておいたらどうなるか?――である。
たいへんな結果になることは分りきっている。
「?……」
腕をこまぬいたまま、二人の若い沙門は、ただため息をつきあうだけであった。
二人が、自分たちの生命がけな願いを容れてくれそうもないと見ると、松虫も鈴虫も、
「二度と、御所へは帰れぬ身です。もし、ここにも私たちはいることができないとすれば、死ぬほかはございませぬ」
もう泣いていなかった。
彼女たちは、あらかじめ死を賭しているのである。
死をうしろにしている強さが眸(ひとみ)の底にあった。
むしろ狼狽しているのは安楽房であり住蓮のほうであった。
「……弱ったのう」
「む……む……」
果てしのない困惑が、いつまでも重苦しい吐息をつかせていたが、
「では、御所へは、どうあっても、お帰りなさらぬ覚悟ですか」
「帰りませぬ」
「しかし……」
懇々(こんこん)と、諭(さと)しかけると、
「いいえ、私たちの願いの無謀なことは分っておりますが、こうなることを、よく知っても、こうせずにいられない気持で御所を出たのですから……」
教養も常識もあるこの女性たちである、何を今になって、常識めいたことを受け容れよう。
諭しかけた住蓮は、かえって自分が恥かしくなった。
「……安楽房。ちょっと、あちらへ行って、相談しよう」
「うむ」
「では、しばらくお待ちください。中座して失礼ですが、篤(とく)と、別室へ参って、相談したうえでお答えいたしますから――」
と、二人はそこを立った。