『苦楽を繰り返し年は暮れゆく』(後期)

「苦あれば楽あり 楽あれば苦あり」とは、よく聞く言葉です。これで思い出すのは、「アリとキリギリス」の話という方も多いかもしれませんね。

夏の間、遊んで暮らしていたキリギリス

片や懸命に働いていたアリ

夏が過ぎ冬になった時に

遊んでばかりいたキリギリスは食べ物もなく寒さにふるえ

働いていたアリは暖かい寝床と十分な食べ物を得て安楽に暮らした

非常に分かりやすい話です。でも、世の中は、必ずしも頑張った人間が報われるとは限らず、怠けていた人がひどい目に遭うとは限りません。そこが、人生の一筋縄でいかないところでしょうか。

お経の中に、こんな話があります。

夜、ある独り身の男性の家の扉をたたく音がします。

不思議に思って扉を開けると、そこには絶世の美女が立っているではありませんか。

その上、その美女がこう言うのです。

「どうぞ、私を妻にしてください」

男が断るはずもありません。

続けて美女は、

「実は私には妹が一人います。その妹も一緒にあなたの妻にしてほしいのです」

この美女の妹なら姉に劣らない美女に違いないと思った男は、この申し出を快諾します。

それならと美女が妹を招きいれますが、それは姉とは似ても似つかない醜い女性でした。

男があわてて断ると、美女は言うのです。

「私が昼なら妹は夜。一方が存在しなければ一方も存在できない。私たちは切っても切れないのです。妻にするなら二人一緒でなければ」と。

苦と楽も同じこと。それは、背中合せのように切り離せないものなのです。

また「苦」と思えたことが「楽」に転じたり、「楽」だったはずのことが、絶えがたい「苦」に変わったり…。

「苦」と「楽」を経験しなければならない人生は、全体でみればやはり「苦」といえるのではないでしょうか。

楽しいこと、うれしいこと、つらいこと、悲しいこと、思い通りにならないと。決して一色だけではなく、色とりどりの糸で織り上げられているのが私たちの人生、生活というものです。

どのような織物であっても、それは他には代えられない私だけの、あなただけの作品です。

一年を振り返った時に、「いろいろあったけど、まあまあだったな」とか、「無事に年末を迎えられたよ」とか、「来年はもっと頑張るぞ」とか思えたら、それはいい一年だったと言えるのではないでしょうか。