「思いやりのひとこと」(上旬)マイナスばかり

ご講師:米山淑子 さん(特定非営利活動法人『生き生き介護の会』理事長)

介護においては「気づきの感性」ということが必要とされます。

色んなことに気づいていただきたいんですけれども、まずは自分自身に気づくことです。

自分自身の何に気づくかというと、人間誰でもうまくいっている自分と、うまくいっていない自分がいます。

また、自分の好きな部分もあれば嫌いな部分もある。

でも、自分の性格で好きなところを挙げてくださいというと、意外と皆さん挙げられなくて、嫌いなところを挙げてくださいというと、たくさん挙げられるのです。

自分の良いところを見ていないんです。

そして、挙げるだけであれば嫌な自分はいくつも挙げられるのですが、意外と本当にうまくいってない自分には気づいていないのです。

自分に気づくというのは「自分は出来ていないことも、うまくいっていないこともある。

だけど今頑張っている自分を認める」ということです。

そうすると、目の前のうまくいっていない人を見ていても、この人も自分と同じように頑張っているんだと思えるようになるのです。

自分に気づくということは、出来ていない自分だけではなくて、頑張っている自分にも気づくことがとても大切なのです。

私が勤める老人ホームでは、行事の後には必ず、担当した職員さんたちで反省会をするのです。

ただ、そのレポートを見させていただくと、あそこがうまくいかなかったとか、ここが駄目だったとか、マイナスのことばかり書いてくるのです。

でも、私から見ていると、良い点もたくさんある。

ですから、自分たちのいいところを見つけてきなさいと言ってもう一度反省会をしてもらうんです。

とかく反省するというと、うまくいかなかったことばかり見てしまい、落ち込んでしまうものです。

しかし、出来ることに目を向けて、出来ることに気づく。

それが、生かされていることに気づくことにつながるんです。

私は最初に勤めた特別養護老人ホームを辞めた時に、お世話になった方々にお礼状を書きました。

そしたら、五年分で四百五十通にもなったんです。

自分では自分の力だけで仕事をしてきたと思っていたんですが、実際は違っていたんです。

こんなにも大勢の人に支えられて、私は仕事をさせていただいていた。

そのことに気づかされたんです。

人というのは自分一人だけでは生きていないんだということ、それに気づかないといけないのだと思いました。

気づけば、自然に「ありがとう」という言葉や、「おかげさまで」という思いが出てくるのです。

そして、自分が源であることに気づかなければならない。

施設を辞めていく職員さんの中には、「ここは私のいるような環境ではない」という人がいるんです。

辞める理由に環境を挙げるわけですね。

でも、その環境を作ったり、変えたりするのは誰なのかと問われれば、自分たち以外にはいないのです。

自分は何の行動も起こさないで、悪いところは人のせいにしてしまう。

非常によくあることですけれども、それは違う。

改善しようと思った時には、自分が動かないと改善されないのですね。

そういうことに気づいて、ありのままに受け入れていく。

例えば、自分が仮に障害を持ったとしても、病気を持ったとしても、人のせいにしないということ。

「俺が脳いっ血を起こしたのは女房のせいだ」と十年間言い続けた人がいました。

毎朝、老人ホームから奥さんの所に電話をして、「なんで面会に来ないんだ」と言うんです。

そしたら、奥さんはそれを聞いたとたんに電話を切るんです。

それで、もう一回かけて、また奥さんに切られる。

その繰り返しを十年間やってこられた方でした。

自分が病気になったことを認められない方がいらっしゃいます。

それを認めないということは、何も変わらないことです。

認めるからこそ、次の一歩が踏み出せるのです。

障害を持ってしまった、車イスになってしまった。

でも、まだ残されたものがあるじゃないかと気づくからこそ、どういう人生を歩こうかと思えるのです。

ありのままを受け入れて、それからの第一歩を踏み出すことがとても大事なことなのです。