「仏教を通して、-他力と自力、アメリカとの比較から-」(前期)「自由の国」アメリカ、「他力の国」日本

ご講師:坂東眞理子さん(昭和女子大学理事長・総長)

私は富山県で生まれ、30年余り公務員としての勤務を経て、現在は昭和女子大学で学生の教育に携わっております。

次世代を担う人たちにしっかりと世界で活躍してほしい、同時にお互いを支えあうことができるやさしい人になってほしいと常々思っています。

私は40年前に経験したハーバード大学への留学、そして昭和女子大学に勤務するようになってからも昭和女子大学のボストンキャンバスに毎年数回訪れるなどアメリカとの関わりがあり、両国のさまざまな違いを比較する機会があります。

そのときに宗教の力がそれぞれの価値観の背景に影響していると思うのです。

アメリカ人は、自分の人生は自分の力で切り開くという考え方に基づいて行動します。

それに対して日本人は神さま仏さまに生かされていると考え、他動的になりがちです。

今、トランプ氏がアメリカの大統領ですが、トランプ大統領は負けた人がもう一度リターンマッチができる、新しいことにまた挑戦できるという敗者復活型の典型的な人物です。

「自分は大金持ちだ、自分は経営の才能がある」と言っていますが、過去に3回破産しています。

しかし「この商売は失敗したが、また違う商売をやる。負けないぞ、おれは強いのだ」と言ってがんばって復活するのです。

支持する人々にとって、トランプ氏はアメリカンヒーローなのです。

アメリカでは、失敗を恐れずにチャレンジすること、迷っていないで一歩を踏み出す。

そういう精神や行動が高く評価されます。

失敗しても、もう一度立ち上がる、がんばればいくらでもチャンスがあるという点ではとてもフェアな社会です。

一方で訴訟も多く、責任は常に自分に帰結するという厳しい社会でもあります。

それに対して日本人は、ある程度まで運命を受け入れ、あえてそれに抗(あらが)おうとしない傾向があると思います。

例えば就職も好景気のときと不景気のときでは状況が大きく変化しますよね。

巡り合わせの運が、本人の能力や努力を超えて人生に大きな影響を及ぼします。

採用の形態や男女差、学歴、家柄なども影響します。

明治維新で西郷隆盛などの下級武士が実力で台頭したり、戦後でも世の中が安定していなかった時期に田中角栄のような自力型の人が活躍したことはありますが、概(おおむ)ね日本人は自らの運命に逆らわず「お与えさまの人生」として受け入れてきました。

近年「自己責任」という言葉がいろいろなところで使われるようになりました。

日本でも失敗を恐れないでチャレンジし、自分で責任をとり、自分の人生は自分で決めていくというアメリカ的な価値観が少しずつ増えてきたのです。