======ご講師紹介======
川村寿法さん(一人語り演劇家・脚本家)
☆演題 「より良い人間関係を築くために」
真宗大谷派・西蓮寺の住職として、日本各地で仏法講演を行うと同時に、朗読演劇の脚本作りに励む。
平成11年にはメディア出演し、「仏法視点による人生論」などを説く。
平成17年、プロ・セミプロ混成の人形劇団で、脚本・声優役を兼ねた代表に就任。
演目『蓮如上人記〜桜の散り際』が全国誌に掲載された。
また、老人から中年、青少年、幼児役など、あらゆる声の演出を一人でこなす。
「一人語り演劇」を全国各地で実施。
平成18年には、ラジオFMキタキュウシュウ(北九)でレギュラー番組『ラジオ一人語り演劇』を担当した。
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仏教を開かれたお釈迦さまは、人間関係がこじれる原因は、自分への執着
「自我」
にあると教えてくださいました。
それはつまり、自分の考えや価値観を基準にした
「私こそが」
「私だけが」
という我と我の衝突ということです。
私たちは夫婦や親子といった家族の他にも、友人関係、師弟関係など、さまざま人との関わりがあるます。
性格や価値観の異なる人が同じ空間で過ごすということになります。
人間は、自分の主観で物事を推し量る生き物です。
ですから、お互いに自分こそが正しいと主張します。
その我と我がぶつかり合うわけですね。
これがお釈迦さまが言われた執着です。
ここで問題なのは、
「私は間違っていないんだから、あなた方が正すべきでしょう」
と、自分は変わろうとしないのに、相手の方に変化を求める点です。
ここからストレスがたまっていくんです。
そこで、お互いに少しの勇気を出して、自分こそがという思いを引っ込めていく。
自分とは異なる価値観や性格を少しずつでもいいから受け入れていくことが重要になります。
ここで例にあげますのが、私の母親です。
学校の先生を40年間やってきた人で、とても元気な人でした。
しかし年には勝てず、身体が弱ってきて、人工透析を受けるようになりました。
腎臓が悪くなって、2日おきに病院に行って血を入れ替えなければなりません。
私は、仕事の合間を縫って母親の送り迎えをしていました。
透析にとって一番気を付けなければならないのは、風邪をひいてしまうことなんだそうです。
母親も年を取ると気弱になっていくんですね。
ですから、風邪を極端に気にするようになりました。
冬場だと、特に待たされるのが大嫌いになりまして、私が約束の時間に3分遅れて迎えに行くと、
「遅い」
と大声で言われるんです。
さらに
「私はこんなに具合が悪いのに、20分も待たせて」
と言うんです。
でも、私は20分も待たせてはいないんです。
ところが、母親の中の時計では、3分でも20分に相当する長い時間な訳です。
まさにここが
「私の感覚が正しいんだ」
という我執です。
そこで、私は仏さまの教えを思い起こすことにしました。
ここはひとつ私が
「自分こそが」
の我を引っ込めてみようと思ったのです。
ある日、私が遅れて迎えに行きますと、いつものように母親は大きな声で文句を言ってきました。
そしてお寺に着いた時、私は自分の中にある
「絶対に3分ほどしか待たせていない」
という思いを押さえ込んで、
「お袋、悪かったね。
20分も待たせて悪かった」
と言ったんです。
すると、母親はなかなか車が降りようとしません。
じっとうつむいて、
「私こそ悪かったね。
本当にありがとう」
と、初めて言ってくれたんです。
私はこのとき、もっと早く
「悪かったね」
と言えば良かったと思いました。
このことが、私と母親との本当の出遇いになったと思っています。
このように、お互いが
「自分は正しい」
という我を引っ込め、自分とは異なる相手の生き方、考え方、性格を認めて受け入れていく。
そうすることで、おのずとお互いに心が開かれ、人間関係が築かれていくんです。
そのことを、私は日頃の仏さまの教えと、家族との関わりを通して、学ばせていただいたような気がします。