2019年7月法話『言葉は癒しにも武器にもなる』(後期)

「思い内にあれば 色(いろ)外に現(あらわ)る」ということわざがあります。心の中に何か思うことがあると、自然に顔や表情や、言葉、動作に現れてしまう、ということです。ですから、「言葉は心の使い」ともいい、言葉を発するときは気をつけなければなりません。

まさしく、「言葉は、相手を癒(いや)すものにも、相手を傷つける武器にもなる」からです。よく、「会話は言葉のキャッチボール」とも言われるように、言葉というボールを相手の胸の中にそのまま投げるわけですが、その中でも使ってはいけない言葉があります。

それは「きつい言葉」と「イヤミな言葉」です。きつい言葉は相手を傷つけます。言った方はスカッとします。ボールでも強く投げれば、投げた方はスカッとしますが、受け取った方には、きつさが残ります。ボールを壁にきつく投げると強く跳(は)ね返ります。それと同じように、きつい言葉を投げつけると、必ず相手から、倍返しのように跳ね返ってきます。

せっかくなら、相手の胸に届く、思いやりのある、優しい言葉を届けたいものです。あるお寺の掲示板に、次のような言葉がありました。

「正しいことを言うときは、すこし控えめに言うほうがいい。
正しいことを言うときは、相手を傷つけやすいものだと、気づいているほうがいい。」

仏教には「和顔(わげん)愛語(あいご)」という教えがあります。教区懇談会発行の平成30年「心のともしび」カレンダーの1月の標語にも「やさしさを 顔にも言葉にも」とあるように、思いやりのある、優しい言葉を使うように心がけたいものです。

そこで、「お・も・て・な・し」バージョンを紹介しましょう。

  • お~おかげさま
  • も~もったいない
  • て~手を合わせ
  • な~南無阿弥陀仏と
  • し~称名する

次に、逆バージョンもありますので、お知らせします。

  • お~お前が悪い
  • も~文句いうな
  • て~手を上げて
  • な~何をしてもしらんぷり
  • し~知ったことか

いかがでしょうか。やっかいな人間関係ですが、うまく意思の疎通をはかる(上手なキャッチボールをする)ためには、こころがけるコツがあるようです。鹿児島別院の「ハートフル誌」(H18・11)に、ブディストアナウンサー川村妙慶氏(小倉西蓮寺出身)の講演要旨が掲載されていましたので紹介します。

〇 言葉がなかなかうまく伝えられない。

その場合、参考になるのは、電車に乗る時のアナウンス。例えば「まもなく電車が来ます。危ないので白線内にお下がりください」。まず「まもなく電車が来る」という肝心なことを教えてくれる。そして「危ないですから白線内にお下がりください」と続きます。

もし感情が先走ってしまうと「危ない、危ない。下がれ。下がれ」と先に言う。言われた人は何が危ないかキョロキョロする。肝心な「電車が来る」ことを伝えていない。私たちは肝心(かんじん)なことを言わずに、感情的なことを言ってしまいがち。だから、相手になかなか伝わらない。感情よりも、何があるのかということをまず伝えること。

○「有り難う」はこころの緩衝材(かんしょうざい)。

相手の親切を断る時もよく誤解が生じることがある。断るときも「有り難う」と言いましょう。以前、アナウンサー時代に、ある女優さんを空港まで迎えに行った時のこと。その女優さんは両手に荷物でした。そこで「お荷物持ちますよ」と申し出ると、その方は、まずその気持ちを「有り難う」と受け入れてくれた。そして「せっかくだけどこの荷物はね、私の責任なの。だから最後まで自分で荷物を持つようにしているのよ。せっかくだけど、ごめんね」と言ってくれた。

私は最初「有り難う」と言ってくれたことに、何と <こころ使い> のある言葉だろうと思った。普通なら「自分の荷物は自分で持つから結構です」と言います。これだと「せっかく持とうと思ったのに」となります。まず相手の気持ちに「有り難う」と受け入れるようにしていきたい。

お互いの気持ちを活かすために、伝えるために言葉はある。けなすためにあるのではない。伝えるということは、誤解があったりして難しいが、こころのこもった言葉づかいを心がけたい。