新型肺炎について

昨年の12月以降、中国の湖北省武漢市で病原体不明の肺炎患者が急増していましたが、今年に入ってそれが新型コロナウイルスによる肺炎が原因だということが判明しました。やがて、この新型肺炎は中国から世界の各地に広がり、日本でも次第に感染が拡大しているのは周知のことです。

この影響で、公立の小・中・高の多くが3月2日から春休みまで臨時休校となったり、多くの人が集まるイベントは自粛の要請が出されました。その結果、大相撲の春場所は無観客で行われましたが、今夏の東京オリンピックの開催・野球やサッカーなどのプロスポーツ等の開幕はそれぞれ延期されることになり、コンサートやマラソン大会・卒業式・歓送迎会や諸会合等まで概ね不特定多数の人の集まる行為は、規模の大小を問わず連鎖反応的に中止を余儀なくされました。また、この余波で、参詣者の大半が、感染した場合は比較的致死率の高い高齢者であることから、春季彼岸会の法座を取りやめた寺院も少なからずあると聞いています。

さらに、感染の拡大による経済面での冷え込みは深刻で、いつもなら桜の開花の報に人々の心が浮き立つ時期なのに、世の中には漠然とした不安という暗雲が立ち込めているかのような感じが続いています。

現在、肺炎を引き起こす新型のコロナウイルスについて分かっているのは、SARS(サーズ)やMERS(マーズ)と同じコロナウイルスの仲間だということです。コロナウイルスとは、人や動物の間で広く感染症を引き起こすウイルスのことで、人に感染するコロナウイルスは、これまで6種類が知られています。そのうちの4種類は一般的な風邪の原因となるウイルスで、日常的に人に感染していて、風邪の原因の10~15%(流行時期は35%)を占めるといわれます。あとの2種類が、重度の肺炎を引き起こすSARS(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)とMERS(中東呼吸器症候群コロナウイルス)です。

今回中国で見つかった新型コロナウイルスは、これら6種類とは別の新しい型で、世界の人々を震撼させているのは、既知のウイルスと一致しない新型であるため、まだその性質が分らず特効薬がないのがその一番の理由です。

3月11日、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は、新型コロナウイルスの感染拡大について、世界的な大流行を意味する「パンデミック」に分類され得ると述べました。「パンデミック」というのはWHOの説明によると「国境を越えた感染が制御できなくなり、世界中の誰もが感染の危険にさらされる状態」のことで、感染の広がりを示す用語として使われています。

パンデミックが起きた場合、どの程度の被害が生じると想定されているのかというと、感染者数としては世界の人口の20~30%が感染すると考えられています。現在、世界の総人口は77億人余りですから、15~23億人が感染するということになります。また、過去のパンデミックは1年~2年かけて世界中に拡がりましたが、グローバリゼーションの進んだ現在は世界中にウイルスの拡散するスピードは過去のパンデミックよりもはるかに速く、わずか2か月ほどで世界中に拡がってしまいました。

死亡者数は、パンデミックを起こすウイルスが人に対してどの程度の病原性をもっているかによって大きく違ってくるのですが、過去のパンデミックをみると“香港インフルエンザ(1968年-1969年)”ではおよそ75万人が死亡したと考えられているのに対し、“アジアインフルエンザ(1957年-1958年)”では100万人が死亡したとされています。記録に残っているパンデミックのうち最も大きな被害をもたらしたのは“スペインインフルエンザ”です。このパンデミックでは世界中で少なくとも5,000万~1億人が死亡したとされています。当時の世界の人口は現在の1/3以下なので、今の人口に換算すると1億5000万に~3億人が死亡するような激烈なパンデミックでした。日本でもこのパンデミックで約39万人(一説には48万人とも)が死亡したとされています。

この他、パンデミックで記憶に新しいのは2009年から2010年にかけて拡がった新型インフルエンザ(H1N1)です。これは、メキシコで豚のインフルエンザに人間が感染し、さらに人間から人間に感染するようになったもので、メキシコから陸続きのアメリカ合衆国にも拡まりました。この時も、パンデミックとされ、日本でも厳重な警戒態勢が敷かれ、成田空港にアメリカから飛行機が到着する度に、厚生労働省の検疫所の人がマスクや防護服で飛行機の中に入るなどの対応していましたが、結局日本国内でも広がってしまいました。

この流行が大きな問題になったのは、流行初期にメキシコにおける感染死亡率が非常に高いと報道されたからです。けれども、その後、実際には重症急性呼吸器症候群 (SARS) のような高い死亡率はないということが分かってきました。なぜメキシコで致死率が高かったかというと、経済的な事情から、多くの人はインフルエンザに罹患しても病院には行きませんでした。そのため、家で寝ている内に病状が悪化し、重篤な状態に陥った人だけが病院に収容されました。そういった経緯で病院に入った人たちが次々に死んでましまったので、死亡率の高い感染症だとみなされたのです。

当初は日本でも感染症予防法第6条第7項の「新型インフルエンザ等感染症」の一つに該当するとみなされ、感染者は強制入院の対象となりましたが、実際には季節性のインフルエンザと死亡率が変わらないことが分かってきたので、6月中旬にには厚生労働省が方針を変更したことから季節性インフルエンザと同じ扱いになりました。

実は、通常のインフルエンザでも年間50万~100万人は死亡していると考えられているのですが、既知のウイルスであるため、対症の方法がある程度確立していることもあり、社会的な混乱は見られないのです。

一方、新型コロナウイルス感染症は、現状では大都市を中心にした「感染経路を追えない感染者」の増加が見られることから、水面下で感染が急拡大する可能性が懸念されています。また、感染源が分からない感染者が増えると、軽症者が多いこともあって、地域に感染者がどれだけいるか見当がつかなくなり、一度爆発的な感染拡大が起きると、ヨーロッパのように外出禁止や店舗閉鎖のような強硬な手段を取っても抑えるのが困難になるのではないかと危惧されています。

新型コロナウイルスについては、これまで少しずつ研究が進み、既存の薬が効果があったりすることが分かってきているので、そう遠くない時期に落ち着きを取り戻せるのではないかと思われます。それは、世界規模の感染拡大で早期の治療法確立が急務となり、別の病気の治療薬として承認を受けた薬を試用し、医療機関や製薬会社、大学で臨床試験などが進んでいるからです。

東大の研究チームは、急性膵炎(すいえん)の治療薬「ナファモスタット」に治療効果を得られる可能性があると発表しました。人の細胞にウイルスが侵入するのを防ぎ、感染した細胞の増殖を防ぐ働きがあるとみて、複数の医療機関で臨床研究を予定してます。

新型インフルエンザ薬「アビガン」は、大学病院などで患者へ投与され治験が開始されています。胎児に悪影響があるとして、妊婦や妊娠の可能性のある女性には使用が禁止されるなどの制限はありますが、厚生労働省には約200万人分が備蓄されているとされているので、効果が認められれば速やかな対応が期待できます。

国立国際医療研究センター(東京)では重症患者に対し、エボラ出血熱の治療薬「レムデシビル」の投与を開始しました。この治療薬は米国の研究機関では、感染予防や症状軽減に効果があるとされています。

このように、現時点では新型コロナウイルスの治療薬がなく、新薬開発には時間を要するため、既存薬を転用する試みがなされていますが、既存薬での一定の効果があれば、感染拡大の速度を緩めることもできますし、その間に治療薬が開発されて終息に向かうのではないかと思われます。

ただし、感染拡大の最中にある現状では予測不能なことが多く、そのためその時々の対処の仕方の是非は、感染が終息してから評価が定まるのでしょうが、目に見えないウイルスが相手なだけに、インフルエンザ対策を踏襲した感染防止方法に留意して、何とか無事に乗りきりたいものです。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。