ご講師:山上康弘さん(元プロレスラー)
プロレスの活動を13年間続けきました。
長いようで短く、本当に大変な毎日だったのでが、いいこともありました。
プロレスの巡業は、でっかいバスに乗って、北は北海道からずっと移動しながら試合して周るんです。
もう試合よりも、その地域のおいしいものを食べられるのが唯一の楽しみで、北海道はもちろんカニを楽しみにして行きました。
ところが行ってみたものの、先輩に付き合わされて、食べたのはラーメンだけ。
「先輩、カニはないんですか」と言ったら、
「カニじゃなくてカネがねえよ」
なんて冗談を言われたこともありましたね。
そういう思い出もあるプロレス時代、引退からさかのぼって5年間、地元鹿児島のために何かできないかということで、
「TEAMGAMILOCK(チームガミロック)チャリティープロレス」
という活動を始めました。
GAMILOCKとは、私の必殺技の名前です。
どのような活動かといいますと、私は子どもが大好きなんですが、今テレビなどのメディアでは、自殺やいじめが問題になっていることが報じられていますよね。
私は、本当に強い人はいじめなんてしないと思うんです。
だからこそ、いのちというものの大事さを、プロレスを通してどうしても伝えたかったんです。
なぜなら、自分がいのちがけのことをやっているからです。
そういう思いで、このチャリティープロレスを始めました。
「友だちがいじめられたら、助ける勇気が必要なんだ。勇気も強さだ。けんかに強いということではなくて、自分自身が生きる強さを持たなきゃいけない。僕たちの試合を見てみろ、こんな偉そうに大きな体でのしのしと歩いているけれど、リングに上がると僕だって踏みつけられたり投げられたり締められたりして、こんな人前でボロボロになっているんだよ。でも僕は立ち上がるんだ」
という強さを、子どもたちに理屈じゃなくて、体を張って伝えたかったんです。
昔は
「いじめ」ってありましたか。
私は、いじめという言葉は現代語のような気がするんです。
私は幼少の頃に、先輩に抱えられて船から投げられ、溺れそうになったことがあります。
これは、今の時代だといじめだと思うんですね。
でも当時の私たちの考えは
「泳げないと一人ぼっちになるぞ。お前はここで待っていて寂しくないか。泳ぐ練習をしろ」
という、半分はスパルタ式ですが、半分は自分のために泳ぎを必死に教えてくれたんだととらえていました。
それを私がいじめられたと言ってしまえば、いじめですね。
けれど、私の記憶の中では、昔の先輩っていうのは、半分親代わりで、みんな両親が仕事で忙しかったり、うちも農家でしたから、先輩がしつけもしてくれたりしていたので、そういう感覚だったんです。
それを現代の子どもたちにどのように伝えるか考えたとき、私にできることは体を張ってリングで試合をすることだと思ったんです。
踏みつけられても、子どもたちが見ていれば、こんなところで弱音を吐く訳にはいかないと思いますよね。
だから私は、子どもたちが必死に応援してくれる声援に力をもらって一生懸命戦うんです。
「いじめはやめようよ」
「誰かが困っていたら助けようよ」
ということを伝えるために、私ができる表現がプロレスだったんです。