『受け止める大地のありて椿落つ』(後期)

いま、私の立っている場所は、本当に安心できる大地なのでしょうか。

世界の難民、飢餓問題に深く関わりを持ち、単身で各地のキャンプを訪ねながら活動し、日本からの援助を呼びかけ続けているのが作家の犬養道子さんです。

彼女は、11歳の時に祖父(犬養毅)が首相官邸で暗殺(5.15事件)されるのを目撃されたそうですが、おそらくその子ども時代に遭遇した衝撃的な事件が、著書『人間の大地(中央公論社、1983年刊)』に繋がっていったのかもしれません。

犬養さんは、この書の中で「繁栄と豊かさにおぼれた私たちは、世界の飢えた子どもたちの死に手をかしてはいないだろうか。

現在そして未来をおびやかす飢餓の正体を真剣に考えない限り、私たちも21世紀まで生きのびることはできない。

今、この全地球的脅威に対し、何をただちになすべきか」ということを示しておられます。

その『人間の大地』刊行から30年を経て、「日本は変わりましたか?」という記者からの質問に、犬養さんは

「変化はしているが、人びとの認識は変わっていない。“難民=可哀そうな人”とみなされているが、キリストも難民、アインシュタインも難民。“難民”という知的富の受け入れの上に、欧米の繁栄は有ります」

と述懐しておられます。

犬養さんは「犬養道子基金」を設立して、国内の難民に奨学金を送る活動も続けておられます。

これは、基本人権を戦争・内紛・不正等によって奪い去られた難民青少年男女の友となり、彼らが学び、彼らが共にひとりひとりの「人間としての自立可能の将来」への道をさぐり求めることを目的とするもので、具体的には「教育を受けるチャンス」を奨学金の形で与えるものですが、犬養さんは

「でも、日本に帰る度に寂しい思いがしています。それは日本の高校に通う定住難民の子は、3年間に一度も日本の家に呼ばれないのです。国際化というのは、人間関係のことです」

とおっしゃっておられます。

犬養さんの住まいのあるフランス国境の町には112カ国の人がいて、18カ国の新聞が買えるため、自分が外国人だという意識は全くないそうで、「地球市民として欧州に骨を埋める」覚悟だそうです。

今なお、地球の到るところでたくさんの難民が増え続け、人びとの心には深い傷跡が記されています。

宇宙から見ると、この地球上には国境という線引きなどどこにも引かれていないのに、私たちは「自分は○○人」という意識を離れがたく、そのため国境を巡る争いは今でも世界の各地で続いています。

けれども、私たちの身勝手な意識の垣根を越えて、大地は分け隔てなく降り注ぐ雨を雪を、そして舞落ちる無数の花びらをそのまま受け止めています。

すべてをあるがままに受ける止める大地のように、人種・民族・男女・能力・貧富、その他全ての相違を超えて、誰もが、共に「地球市民」としての生活ができたら、素晴らしい社会が実現するのではないでしょうか。