「いのちの記憶」(上旬)子どもを授かると執着が生まれました

ご講師:二階堂和美さん(歌手・作詞作曲家・本願寺派僧侶)

シンガーソングライターとして最初にCDを出させてもらってから今年で15年目になります。

ですので、皆さんの前で歌わせていただくということは身についてきました。

僧侶としては、学生時代に得度(とくど・僧侶になること)して18年経ちますが、実際に袈裟(けさ)と衣(ころも)を着てお話することの経験はまだまだです。

私は広島県大竹市にある大龍寺(だいりゅうじ)という西本願寺の寺で生まれ育ちました。

お寺は父がまだ住職をしています。

姉と2人姉妹ですので、小さなころからどちらかがお寺に残るのかなというような思いはありましたが、両親は何も強制的なことは言わないので、なんとなく見守られて育ちました。

10年ほど前から活動の拠点を東京から自坊のある広島に移しました。

それから10年、いろんな経験をして、考え方も随分と変ってきました。

多くの刺激を受け、同じ場所でも高校生のときに暮らしていたころとは心境が違いますね。

自坊では、両親と97歳になる祖母、主人と娘で暮しています。

近所に姉が嫁いでいますので、その子どもたちが家に遊びに来たり、近所の方々との触れ合いをするなどにぎやかです。

広島に帰った当初、音楽に集中する時間がずいぶん少なくなってしまったことから「どうしたらいいんだろう」と葛藤することもありましたが、近年作る曲はその生活があって生まれてきたものです。

そうやって生まれた曲が、ご縁あって高畑勲監督に届き、昨年公開されたスタジオジブリの映画『かぐや姫の物語』の主題歌「いのちの記憶」を作詞・作曲し歌わせていただくことにつながりました。

それからテレビにも流れるようになり、多くの方に聞いていただくことになったんです。

本当にひとつひとつのことが今につながっているなあと感じる、そんな毎日を送っています。

実は最初そのお話をいただいたとき、ちょうど私のお腹の中には赤ちゃんが宿っていて、このお仕事お受けしようかどうかと迷いました。

ですが、『かぐや姫の物語』というお話は、小さないのちが翁(おきな)と媼(おうな)のところに現れて、そこで葛藤しながらも月に帰っていくという、限られたいのちを生きていくお話。

仏法で聞かせていただいていることや自分の境遇と重なるテーマに、ただならぬ縁を感じてお受けしました。

また主題歌の他にも、かぐや姫をイメージして何曲か作らせていただきました。

その中のひとつに『私の宝』という曲があります。

映画の中ではかぐや姫の幼いころを翁と媼が本当にかわいいと大事に育てる姿が非常に丁寧に描かれています。

「姫おいで、姫おいで」と抱きとめるその翁と媼の姿と、昨年子どもが誕生した私自身のことを重ねてこの曲を書きました。

また阿弥陀さまの前でも私も子どもになってすべてをお任せする心持ちなど、いろんな立場から、多くの方に当てはまっていただけるようにとの思いを込めました。

子どもを授かると、どんどん執着が生れてきます。

それまでは、「もし両親が亡くなってしまったら私は執着するものがなくなってしまうな」と思っていたんですが、いろんなご縁があって私にも大切ないのちが授かり、嬉しい半面、同時に悩みも生まれて困ったなと思うこともあります。

でも本当に有り難いです。