「快老のすすめ」(下旬)お金で買えない

この前ある新聞から、「投書がきたんだけれども返事を書いてくれないか」と頼まれたんです。

その投書というのは、

「自分は会社人間で、この道一筋でやってきたけども、今度定年退職になって急にひまができたが、これから趣味はどうしたら得ることができるか教えてくれ」

というものだったんですが、こんなことは返事はできませんよ。

ところが、パッと私の頭に浮かんだのは、家内が「家の前の道のたばこの吸い殻を二百本拾った」なんて報告したことだったんです。

これはいいということで、

「あなた吸い殻を拾いなさい。ただし、拾うだけだったら日本国中他にもライバルがいますから、その統計をとりなさい」

という返事をしたんです。

それから、

「一週間に分けて何曜日が一番多い、少ない、という統計が出ますから、それから一歩進んで春夏秋冬ごとの統計をとりなさい」

ということになって、

「それでもしかするとあなたは『日本一の吸い殻大将』ってあだ名が付いて、テレビからもお呼びがくるかもしれないし、新聞記者も取材にくるかもしれないですよ」

と、統計をとることをお勧めしたんですね。

戦争が終わってから多くの手帳を書いてますけど、必ず書いていることがあります。

終戦後新宿に四十数年住んでいて、平成になった年に私の病院のある府中に越したんですけども、その間、新宿から府中の病院まで通ってたんですね。

終戦後十年たってやっと自動車を手に入れて、自分で運転しながら通ってたんです。

いつも同じコースで、新宿から府中まで甲州街道を通るように決めてるんですよ。

ところが、「一時間何分かかった」とか、「今日は五十何分で行けた」とか、必ず手帳に書いてあるんです。

知らない間に統計をとってるんですね。

統計をとることは大事なことなんです。

それからまた趣味がわいてくるかもしれませんからね。

私が今から十数年前に始めたのが、鉄道唱歌を覚えることであります。

全部で四百番以上もあり、すべて覚えていませんが、もう覚えちゃ忘れ、忘れちゃ覚えが当たり前ですよ。

せまい意味での記憶力というのは、二十歳をもって最高とするというんです。

簡単な計算とかの記憶力は、二十歳の方にはかなわないんですよ。

しかし皆さんは二十歳の方よりよっぽど偉い。

それは人生経験があるからです。

これはお金では買えませんね。

しかし鉄道唱歌というのは面白いです。

明治三十二年ごろできた歌ですけど、日本の歴史がわかるんです。

例えば名古屋の辺りに熱田神宮というのがありますけど、そこは『金のシャチホコは名古屋の城の光なり』、それから『仰げや同朋四千万』とあるんです。

だから明治三十二年ごろの日本の人口は四千万あったということがわかるんですね。

また名古屋を過ぎまして、『地震の話まだ消えぬ岐阜の鵜飼もみてうかん』なんていう文句があるんですが、地震の話って何だろうなと思って歴史を調べてみると、その少し前に大地震があったそうなんですね。

このように、疑問を持つことが調べることにつながるんです。

最後の四番目になりますが、他罰傾向がないということ。

つまり自分で責任をとり、他人のせいにしないということです。

学校へ行かず、おとなになって引きこもりばかりしている人の大部分に、他罰傾向があると思うんですね。

学校の先生や両親が悪いということで自分で責任をとらず、みんな他人が悪いということにしていてはだめなんです。

晩年明るい方は自分で責任をとるんです。