ご講師:堂園 文子さん(堂園メディカルハウス総合ケアマネージャー)
母は今から十年以上前、私が今しているホスピス・ケアとは正反対の最期を迎えました。
母は関東の大きな大学病院で、管が何本も入って、眉間には深いしわが寄って、これでもかこれでもかという治療をしていました。
母が一度「殺してほしい」と言ったこともありました。
最期のほうは血圧を上げる点滴が始まっていたのですが、「お願いだからやめて」と私は言って、その血圧を上げる薬を止めていただきました。
母は「死ぬことは苦しくないけれども、みんなと別れるのがさびしいの」と言っていましたので、絶対苦しい思いだけはさせたくなかった。
このような経緯が、今の私の仕事につながっていると思います。
私の立場としましては、総合マネージャーと言いましても、小さな旅館の女将さんみたいなもので、病院のことはゴミ袋から税金のことまで何でも知っていて、いろんな方が「おたくでは今入院できますか」とか、「おたくではどのような治療をなさるのですか」といった電話の相談や、直接病院にいらっしゃった方の相談口になっています。
いろんな患者さんやご家族とお目にかかる機会が非常に多くて、その中で皆さんが持っているホスピスのイメージとしては、まずは死ぬ所。
もう治療がなくなって病院の先生から「することは何もありません」と言われてから行く所なんだと。
そして保険がきかないから月に何百万もかかるのではないか。
それから、かならずガンと知っている人じゃないと行ってはいけないのではないか。
それとモルヒネで痛みを止めるらしいけれども、モルヒネを使うと痛みは止まるけど命はちょっと短くなる。
またかならず付き添いがいないとだめだと。
つまり、治療はまったくしないで、ただ痛みを取って精神的なケアをしてくれるところといったイメージがあるようです。
でも、全部誤解です。
うちの病院にいらっしゃる患者さんの半分はガンと伝えていませんし、現実にガンでない方も入院できる病院です。
かならずしもガンで余命が少ないんだと説明されていないと入れないわけではありません。
それから保険の治療もできます。
そして、モルヒネに対する誤解がとても多いです。
いざというときに効き目がなくなってしまうからなるべく我慢しないといけないんだと思っておられる方が多いですね。
ところが、モルヒネ以外の痛み止めですと、少し胃に負担がかかったりしますので、あまり飲みすぎると害が出てくることがありますが、モルヒネというのは、飲みながら痛みをコントロールできるんです。
上手にコントロールすれば副作用である眠気とか便秘とか吐き気もちゃんとコントロールできて、痛みがない状態にできるんですね。
ですから末期だから使う薬ではなくて、痛みの強さに応じて使う薬です。