平成30年7月法話 『生きるとは いのちを頂くこと』(後期)

「園長先生、とってもいい絵本がありますよ」

園の読み聞かせグループのお母さんが

一冊の絵本を持ってきました。

 

受け取って開いてみると

最初のページにはイタチの親子が描かれていますが、

親イタチはもう死んでいます。

そばで子どものイタチが

悲しげに泣いています。

色彩も暗いそのページに一瞬ドキッとしました。

 

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、

近藤薫美子さんの「のにっき-野日記-」という絵です。

 

その親イタチの亡骸を

小さな虫たちから

哺乳動物に至るまで

たくさんの生き物たちが、

それぞれが生きる糧としていく姿が描かれています。

 

季節は秋から冬へと、

そして春へ初夏へと移っていきます。

このころのページになると

絵の色も

黒を基調にしたものから

明るい色に変わっています。

もう亡骸そのものも見えなくなった大地の上に

たくさんの植物が生えて、

いのちの躍動を感じます。

そしてその草むらを、

あの子どものイタチなのでしょうか、

駆け抜けていく姿で絵本は終わっています。

 

この絵本には、文章がありません。

絵の中で、小動物たちの会話は絵が描けていますが、

絵だけで、語り掛けてくる絵本です。

 

せっかくお母さん方が紹介してくださったので、

子どもたちにも読んであげたいと思いましたが、

正直なところ、この絵本を、

子どもたちに読み聞かせをするかどうか

少し迷いました。

 

ストレートに「死」を語っているからです。

子どもたちに見せるには

ちょっときついかなとも思ったからです。

でも、私は本堂での年長組さんのお参りのときに

子どもたちの前でこの絵本を読むことにしました。

子どもたちを信じて。

 

絵本の大好きの子どもたちですが、

絵本を開いていくと、笑顔が消えていくのが

手に取るように分かりました。

 

確かに、笑顔は消えました。

その代わりに、

真剣な表情で

食い入るように絵を見つめている

子どもたちのまなざしを感じました。

 

お参りが終わって、給食が終わってすぐに

「園長先生、絵本を貸して」と

子どもたちが絵本を借りに来てくれました。

その絵本が私のもとに帰って来たのは、

随分日が経ってからだったのを覚えています。

 

それぞれのお部屋で、

先生と子どもたちと

また子どもたち同士でもお話をしたのだそうです。

 

怖かったという声ももちろんあったそうです。

でも最初は怖かったけど

後からはなんだか、うれしい気持ちにもなった

と語っていたようなんです。

 

「イタチさんは死んでしまったから

最初は悲しいと思っていたけど、

虫さんたちやお花や

植物や、たくさんのいのちの中で生きているんだね。」

 

「自分たちの中でも

たくさんのいのちが生きているんだね。」

 

そんな子どもたちの声を聴かせてもらって、

この絵本を読んでよかったなと心から思いました。

 

そして、紹介してくれたお母さんに

感謝の意を込めて、子どもたちの言葉も伝えました。

そしたらお母さん方に

「園長先生、当たり前じゃないですか。

ここはお寺の園ですよ。

子どもたちは、仏さまのお話を

いつも聞かせてもらっているじゃないですか」

と言われてしまいました(笑)

 

あれからかずいぶん時間もたちましたが、

私は今でも

私は、あの時の食い入るような子どもたちのまなざしを

忘れることはありません。

 

生きているものは、他のいのちを頂かないと

生きていくことはできません。

あの子どもたちのまなざしは

私にそのことを語り続けてくれています。